第39回 多職種の食支援
公開日:2025/06/23
前回、食支援とは「本人・家族の口から食べたいという希望がある、もしくは身体的に栄養ケアの必要がある人に対して適切な栄養摂取、経口摂取の維持、食を楽しむことを目的としてリスクマネジメントの視点を持ち、適切な支援を行っていくこと」1)と定義しました。その中で具体的に「全身管理」「栄養管理」「口腔環境調整」「口腔ケア」「摂食嚥下機能のリハビリ」「食事姿勢の調整」「食事環境調整」「食事形態の調整」「食事作り」「食事介助」等があることをお話しました。
そこで今回は、実際、どのような職種の方がどのように食支援をしているのか症例を通してより具体的な食支援をお伝えしようと思います。症例は、これまで私が経験した食支援をフィクションにしたものです。
症例紹介「口から食べる機能はどうか?」
大久保稔さん(84歳・男性)は脳梗塞の既往歴があり、右半身麻痺の状態です。今回、誤嚥性肺炎を発症して入院されましたが、発熱も収まり、ご自宅に戻られました。退院後のご本人とご家族のご希望は、流動食中心だった病院での食事から、もう少し形のある食事を摂れるようになることでした。入院前まではご家族と同じものを食べていたとのことです。
ケアマネジャーから私(歯科医師)に「口から食べる機能はどうか?形のある食事に変更できるのか診てほしい」との依頼がありました。最初の訪問日に、ケアマネジャーさんにも同席していただき、状況を確認することとなりました。
訪問当日、部屋に通されると、大久保さんはベッドに横たわっておられました。
顔色はあまり優れず、かなり痩せている印象を受けました。私が声をかけると、うっすら目を開けられる程度でしたが、奥様の声がけと、肩を揺すられることでようやく目を開けられました。
退院後、食事の際は車椅子への移乗を行っているとのことでしたが、それ以外の時間はほとんどベッド上で過ごされている状況でした。一度、車椅子に移乗していただきましたが、座った際に「ズッコケ座り」になり、少し横に傾いてしまいました。そのため、私とケアマネジャーが改めて姿勢を整えました。
その姿勢で私が持参したテスト用ゼリーを食べていただくことにしました。右手が麻痺しているため、私がスプーンですくったゼリーを左手で受け取っていただきましたが、スムーズには動かず、口に運ぶ際にゼリーを落としてしまいました。2回目は何とか口に運ぶことができ、ゼリーを口に入れられました。しかし、飲み込む動作に時間がかかり、なかなか喉を通りません。何度かチャレンジしてようやく飲み込むことができました。飲み込んだ直後に軽い咳払いがありましたが、激しくむせることはありませんでした。
3つの問題点
その後、大久保さんにはそのまま車椅子に座って頂き、奥様、ケアマネジャー、そして私の3人で今後のことを検討しました。私は以下の3つの問題点を指摘しました。
栄養の問題
痩せていることから、現在の栄養摂取量を見直し、必要な栄養を確保する方法を検討する必要があります。これについては、管理栄養士に介入してもらい、主治医と連携しながら進めていくことを提案しました。
姿勢の問題
ベッドから離れ、椅子や車椅子への移乗を定期的に行い、食事をとっていただく必要があります。これを実現するには、移乗の訓練や車椅子の調整が必要と考えられます。そのため、理学療法士や福祉用具専門相談員の介入を提案しました。また、必要に応じて移乗用リフトの導入もアイディアとして挙げました。
食べる機能の問題
飲み込み自体は可能であるものの、食べるための筋力が低下しており、動作にスムーズさを欠いていました。そのため、言語聴覚士に依頼し、口から食事を摂ることを継続しながら、食べる動作の訓練を進めることを提案しました。
これは一例ですが、私が介入したとき、上記に挙げた3点を整えることを意識しています。次回は食支援と栄養についてお話していきます。
五島朋幸(歯科医師/食支援研究家)
1965年広島県生まれ。
ふれあい歯科ごとう代表、新宿食支援研究会代表、日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。株式会社WinWin代表取締役。
1997年より訪問歯科診療に取り組み、2003年以ふれあい歯科ごとうを開設。
「最期まで口で噛んで食べる」を目指し、クリニックを拠点に講演会や執筆、ラジオのパーソナリティも務める。
Contents
- Introduction
- 第1回「ボーっと食べてんじゃねーよ!」
- 第2回「噛めば噛むほど」
- 第3回「噛むことと認知症予防」
- 第4回「美味しさの正体」
- 第5回「飲み込みと姿勢」
- 第6回「飲み込みの動き」
- 第7回「飲み込みが悪くなったときにできること」
- 第8回「口から食べるための訓練」
- 第9回「食事の工夫」
- 第10回「舌の役割」
- 第11回「入れ歯の話①」
- 第12回「唾液の話」
- 第13回「口腔ケアのその前に」
- 第14回「口腔ケアの意義と効果」
- 第15回「誤嚥性肺炎予防」
- 第16回「口腔ケアの効果②」
- 第17回「口腔ケアグッズ」
- 第18回「口腔ケアの実際」
- 第19回「口腔ケアが困難な事例」
- 第20回「入れ歯の口腔ケア」
- 第21回「認知症と口腔ケア」
- 第22回「認知症と口腔ケア(実践編)」
- 第23回「認知症と入れ歯」
- 第24回「食べることと薬」
- 第25回「入れ歯の話②」
- 第26回「入れ歯と誤嚥性肺炎」
- 第27回「口腔内の変化」
- 第28回「残根の話」
- 第29回「口腔ケアグッズ②」
- 第30回「口腔ケアグッズ③」
- 第31回「ブラッシング法」
- 第32回「機能的口腔ケア(唾液腺マッサージ・嚥下体操など)」
- 第33回「食事介助」
- 第34回「SSK-O(食べる機能と食事の形態)判定表」
- 第35回「食事動作」
- 第36回「食支援とは」
- 第37回「食べることとリスクマネジメントの話」
- 第38回「食支援とそのプロフェッショナル」
- 第39回「多職種の食支援」