第16回「口腔ケアの効果②」

公開日:2023/07/11

 前回のコラムで、口腔ケアによって誤嚥性肺炎が予防できることはお分かりになったかと思います。そもそも口腔ケアが注目された最初のきっかけは誤嚥性肺炎予防効果が示されたことだったので、これについては多くの方が知っています。その他、お口の周囲環境が良好になることも理解できると思います。さて、今回は、口腔ケアの意外な効果についてお話していきます。

1 口腔ケアと認知症予防

口腔ケアによって認知症が予防できる!と言ったらどうでしょう。かなり意外な効果だとは思いませんか?「口腔ケアによって認知症が予防できる」というのは少し言い過ぎかもしれませんが、元のデータを直訳すると、「口腔ケアを実践することによって認知症の進行を抑えることができる」ということがわかっています(※1 図1)。

図1 口腔ケアと認知機能

この研究は、認知機能の評価であるMMSEというテストを老人ホームの高齢者に実施したものです。30点満点で、2年間の変化を追ったものです。高齢の被検者なので点数が下がっていく傾向はあるのですが、口腔ケアを実施した群の下がり方は、そうでなかった方に比べて緩やかだったということを示しています。

私自身、初めてこのデータを見た時に本当に驚きました。この理由は直接示されているわけではないのですが、私なりにその理由が3つあると考えています。

1つ目は、お口の刺激です。お口は脳と密接に関与しています。その口をしっかり刺激することによって認知機能の低下を抑えたのではないかと思います。

2つ目は、口から食べることの効果です。前回お話したように、お口を刺激することによって飲み込みの機能が維持向上します。これによって口から食べることが維持されます。口から食べることはさらなるお口の刺激になるだけでなく、お口の環境は良好に維持され、栄養状態も良好に維持されます。

3つ目は、ケアの効果です。口腔ケアをされることで、相手とのコミュニケーションができます。それは認知機能にも深く関与しているのではないかと考えています。

 

2 口腔ケアとインフルエンザ予防

口腔ケアによって誤嚥性肺炎が予防できるという話が出た後、ほどなくしてインフルエンザが予防できるというデータが示されました(※2 図2)。少し込み入った話ですが、誤嚥性肺炎は細菌感染ですが、インフルエンザはウィルス感染なので予防機序が同じという訳ではありません。

図2 インフルエンザ発症率

では、なぜ口腔ケアでインフルエンザ予防できるのでしょうか。大きく2つの予防機序があるといわれています。

1つは、歯垢(プラーク)に含まれる細菌が作り出す酵素によって、粘膜を保護しているタンパク質が破壊され、インフルエンザウイルスが細胞に侵入しやすくなるということです。要は、お口の中が清潔でないと粘膜が弱くなってしまい、ウィルスが体の中に入りやすくなってしまうということです。

もう1つは、お口の中が清潔でないと免疫機能が正常に働かないということ。本来、唾液には抗体(IgA)というものが存在していて、有害な細菌やウィルスが粘膜に付着するのを防いでいます。口腔内が不潔だとこの機能が正常に働かず、インフルエンザにかかってしまいやすくなります。

 

ウィルス感染はインフルエンザだけではありません。新型コロナもウィルス感染です。直接予防効果を示したデータはありませんが、しっかり口腔ケアをすることによって予防できる可能性は高いです。

実はデータとして、水うがいによって風邪を予防できるということが証明されています(※3)。今の時代、帰ったら手洗い…だけではなく水うがいは必要ですね。ちなみにポピドンヨード(イソジン)でのうがいは風邪の予防効果が認められませんでした。

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今回は口腔ケアのユニークな効果についてお話してきました。

次回は、実際に口腔ケアを実践するときに便利なグッズについてお話していきます。

 

1)米山武義ら;要介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎予防効果に関する研究.日歯医学会誌,20:58-68,2001.

2)平成15年度老人保健健康推進事業;口腔ケアによる気道感染予防教室の実施方法と有効性の評価に関する研究事業報告書

3)Satomura K, Kitamura T, Kawamura T, et al. Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. Am J Prev Med. 2005;29(4):302-307. doi:10.1016/j.amepre.2005.06.013

歯科医師 五島朋幸

 

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