第25回「入れ歯の話②」

公開日:2024/06/05

入れ歯の話

 歯が抜けてしまったときにはいくつか方法があります。残っている歯を利用して連結した歯を入れていくブリッジ、インプラント、そして着脱式の入れ歯があります(第11回参照)。今回は入れ歯についてもう少しお話をしていこうと思います。

1 歯を抜いた時の変化

あなたは歯を抜いたことはありますか?意外とすんなり抜けたという人もいるでしょうし、痛くてずっと薬を飲んでいたという方もいるでしょう。また、今まで歯を抜いたことがない方でもちょっと想像してみてください。歯には根があるので抜歯をすると根も抜いてしまうことになります(正式に言うと、根を抜くことが抜歯)。そうすると、根があった場所にくぼみ(穴)が生じます。それからある程度の時間がたつと肉でくぼみが覆われます。その時、周りの骨も吸収していき、もともと歯ぐきがあったラインから下がって治っていきます。また、骨の吸収もあるので周囲がほっそりします。これが歯を抜いた後の変化です。

 

2 入れ歯の構造と残根

わかりやすく総入れ歯で考えてみましょう。入れ歯は人工の歯(人工歯)の部分とピンク色の部分(床;しょう)で構成されます。要は、歯を抜いて骨が下がり、歯ぐきが下がったところをピンク色の部分で補い、元々歯があった部分に人工歯が配列されているということです。

上の総入れ歯

歯ぐきの高さというのは人によって大きく異なります。更年期の影響と言われているのですが、女性の方だとあごの土手の高さがほとんどなく、ほぼ平らになってしまう方もいます。そのような方だと、入れ歯のピンク色の部分が非常に分厚くなります。

土手の高さがない下顎

また、歯を抜かなくても入れ歯を入れることがあります。歯の頭の部分が折れてしまい、根だけ残っているようなケースで、大きな支障がなければそのまま根を残した状態で入れ歯を作製することもあります。と言っても1つの入れ歯に対して1、2本残根があることがあるというイメージです。

ところが、最近訪問歯科診療をしていると多くの歯が残根になってしまっている方をよく見かけるようになりました。昔に比べて歯を残している方が多くなっており、在宅で介護を受けるような状態になって次々と歯が折れてしまうケースがあります。問題は、病気や薬の関係上、抜歯ができない方もいます。また、残根が20本位あり、全部を抜歯ということが難しい方もいます。このような方へも入れ歯を作製することはあるのですが、形態上痛みが出やすかったり、嚙み合わせの調整が難しかったりするケースも多々あります。

 

 

3 入れ歯の適応性

あなたは歯科医院で歯の治療をされたり、歯を削られたりしたあと、「歯の型を取ります」と言われて口の中にグニュっとした粘土のようなものを入れた経験はないでしょうか。その時どう感じましたか?私たちは毎日のように型どりしているのでわかるのですが、一定数苦手な方がいて、吐き気をもよおす方や涙目になって唾をだらだら出すような方もいます。私自身は、頑張れば何とかしのげますが、型を取られるのはとても苦手です。まったくこのような経験のない歯科医師は「食事がとれるのだから気持ちの問題」などと言いますが、そうでないことは私自身わかっています。やはりつらいです。

このような方が入れ歯を入れられるのか?正直難しいです。これまで何人かおられたのですが、結果は全敗です。入れた瞬間に吐き気をもよおすなどされるので、入れ歯の大きさを小さくしたり、材質を変えたりしたのですが、まったく受け入れてもらえず、入れ歯なしで食べておられる方もいます。思い切ってインプラントにした方もいます。

入れ歯はあくまでも人工的な代用品であり、人間は入れ歯を入れるために生まれてきてはいません。このようなことからも、自分の歯は大切にしていきましょう。

 

次回は、誤嚥性肺炎の発症と入れ歯の関係についてお話します。

歯科医師 五島朋幸

 

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