第19回「口腔ケアが困難な事例」

公開日:2023/11/16

 口腔ケアのお話で講演やセミナーでお話しするケースがあります。もちろん一般的な話をするのですが、実際に口腔ケアを実践する方から多くの質問をいただきます。
口腔ケアといっても各現場で状況が異なり、困難なケースもたくさんあります。
そこで、よく出てくる質問に回答する感じで今回は進めていきましょう。

1 口が開かないケース

口を開けてもらえないので口腔ケアが困難なケースがあります。ここで考えられることは2つあります。意志として口を開けないのか、身体的状態で口が開かないのか。前者であれば、次項で述べる「口腔ケアを拒否する」ケースになります。普段は食事をしたり、声を出したり、あくびをするといったことで口が開くのに口腔ケアの時は開けないといったケースがこれにあたります。

ただ、関節の異常や開口筋(口を開ける筋肉)の硬直などで口が開かないケースもあります。このような時は、まず周囲の組織を軟らかくするためにマッサージや頬、唇のストレッチなど前準備が必要です。この準備だけで5~10分位とることもあります。準備が終わると歯ブラシなどでブラッシングしていきますが、口が開かず、舌の方(内側)までブラシが到達しないケースもあります。そのような時は無理をせず、歯の外側(頬側)をブラッシングしていきます。毎日のケアの中で関節や筋肉が少しずつ軟らかくなり、口を開ける量が増えていくこともあります。間違っても、無理やり力ずくで開けるようなことはしないでください。

 

2 口腔ケアが拒否されるケース

もっとも質問が多いケースです。前提として2つのことを頭に入れておきましょう。1つは、よく理解できない中、歯ブラシのようなものが目の前に来ると怖いということ。元気な時は自分でケアをするので、歯ブラシに抵抗はないのですが、他人が持った歯ブラシがこちらに向かってくるというのは凶器に見えるし、何をされるかわからないという恐怖心になります。もう1つは、口の中が過敏になり、ちょっとした刺激でも痛いと思う方がいるということ。少しでも歯ブラシや指が入ると食いしばって抵抗する方がいます。

この前提から考えて、まずはブラシの入れ方。よくブラシを見ていただき、歯ブラシを軽く唇などに当てるなどして「怖くないものだよ、軟らかいものだよ」ということを理解していただけるようにします。また、使用するブラシは軟らかいものを使用し、お口の中での刺激が強くないようにします。もちろんブラッシング圧にも配慮が必要です。

また、認知症などでケアを拒否される方もいます。実際、私も口腔ケアを行うために訪問したのに何もできずに帰った経験は多々あります。このような時、少し長い時間軸で考えていきましょう。たとえ今日、無理やり押さえつけて口腔ケアができたとしても、翌日からの拒否はますます強くなってしまいます。今日は全くできなかったとしても少しコミュニケーションがとれたらOKと考えましょう。その後、少し唇にブラシが当てられた、とか、口の中にブラシを入れるところまでできたなどという日が来るかもしれません。口腔ケアは数日の話ではありません。長いスパンで考えていきましょう。

どのようなケースでもそうですが、口腔ケアが嫌なこと、不快なことにならないように考えていきましょう。ブラッシング後はすっきりしたとか、気持ちよかったと思ってもらえればその後はスムーズに実施できるでしょう。

 

3 口が乾燥しているケース

様々な要因で口が極度に乾燥している方がいます。このような時は2つのことを意識してください。1つは唾液腺マッサージ(図参考)。もう1つは保湿剤です。

唾液腺マッサージは、3大唾液腺である耳下腺、顎下腺、舌下腺を刺激して唾液の分泌を促すものです。とても有効なのですが、極度に口腔乾燥している方では唾液そのものがないということもあります。そのような時は保湿剤を積極的に使用します。保湿剤は口腔ケア前にしっかり拭き取り、口腔ケア後に塗布するという手順でケアします。

 

様々な現場で困難なケースは多くあります。そのような時はぜひ、歯科医師、歯科衛生士に相談してみてください。

 

次回は、入れ歯のケアについてお話しします。

歯科医師 五島朋幸

 

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