第20回「入れ歯の口腔ケア」

公開日:2023/11/28

 以前もお話ししましたが、以前に比べて自分の歯を多く残している高齢の方が増えています。私が訪問歯科診療を始めた25年前、対象だった患者さんは明治40年代から大正一桁世代。多くの方が総入れ歯でした。
それから時代が変わり、自分の歯も残っている部分入れ歯使用者が多くなりました。皆さんもご存じのように、部分入れ歯の構造は総入れ歯に比べて少し複雑です。針金のようなものがついていたりするからです。
口腔ケアでは入れ歯を外してしっかり洗っていくのですが、その時のポイントについてお話していきましょう。

1 入れ歯の特徴

入れ歯は完全オーダーメイドですから2つとして同じものはありません。総入れ歯ではだいたい同じ形になりますが、部分入れ歯では歯科医師の考え方によって設計はまったく異なり、多様性があります。

もう1つ知っておいていただきたいことは、その方の顎の形によって入れ歯の大きさ、凹凸の深さなどが全く異なります。例えば、顎の土手がしっかり残っている(顎の土手が痩せていない)男性の入れ歯だと、歯ぐきと直接接触する面(人工の歯の裏面)の凹凸が深く、痩せて顎の土手が吸収してなくなっている女性の入れ歯の裏面は平になります。

 

2 入れ歯はブラッシング

まずは入れ歯を外していただき、入れ歯を洗浄します。この時の大前提はしっかりブラッシングをすることです。入れ歯を外してそのまま洗浄剤の中につけてしまう方がいましたが、それでは効果が期待できません。ぬめり感がなくなるまでしっかりブラシでこすります。部分入れ歯で小さなもの(2,3本分の入れ歯)であれば歯ブラシを兼用してもいいでしょうが、それ以上大きな入れ歯であれば入れ歯洗浄ブラシを用います。特に前述したように、入れ歯の裏面の凹凸が深い方の入れ歯では、通常の歯ブラシでは磨けないケースも出てきます。それだけでなく、歯ブラシの柄で入れ歯を壊してしまうケースも出てきます(下図)。入れ歯洗浄ブラシを積極的に使用しましょう。

3 ブラッシング法

入れ歯洗浄ブラシの特徴として、1つは通常歯ブラシよりもブラシが硬いこと、もう1つは2種類のブラシが混在していることが挙げられます。ブラシ部は面積が大きいものと、長く細いブラシの2種類があります。入れ歯の多くの部分は大きいブラシを使用し、凹凸の底の部分や針金などは細いブラシを使用します。その後、よく水洗します。

 

4 洗浄

入れ歯の洗浄時、通常に使われる歯磨き剤は推奨されていませんでした。1つは研磨剤の存在で、入れ歯に使用すると表面を傷つけてしまうと言われてきました。そこで、入れ歯は水洗するだけだったのですが、入れ歯用の歯磨き剤も出てきました。研磨剤の調整をしてあるので安心して使用することができます。もちろん、水洗に比べて除菌効果や汚れを除去する効果も期待できるので積極的に使用しましょう。

また、以前は入れ歯の歯磨き剤が存在していなかったこともあり、つけ置きタイプの洗浄剤がメジャーになっています。もちろん効果はあるのですが、前述したように、しっかりブラッシングした後の仕上げとして使用するものです。使用時間は製品によって異なりますが、一般的に3~5分です。その後は再びしっかり水洗ブラッシングして使用します。

 

5 その他の用具

総入れ歯であれば入れ歯洗浄ブラシのみあれば事足ります。しかし、部分入れ歯の構造上、針金の形などがとても複雑になっているケースや、複雑な構造を持つ入れ歯もあります。このような時は入れ歯洗浄ブラシだけではブラッシングが困難なケースもあります。そこで、ケースに応じては、歯間ブラシやタフトブラシ、また試験管洗いブラシ(100円均一ショップなどでも購入可)などが有効なときがあります。また、眼鏡や時計などを洗浄する家庭用の超音波洗浄機なども有効です。入れ歯の状況に合わせて考えてみてください。

 

次回は、口腔ケアと認知症についてお話しします。

歯科医師 五島朋幸

 

 

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