第8回「口から食べるための訓練」

公開日:2022/12/20

 口から食べることが難しくなった時、安全に食べるための訓練をすることがあります。いろいろな目的でいろいろな訓練があるので、その方に適したものをチョイスして、適切に実施していくことが重要です。この訓練は2つに大別されます。実際にその方が食べられるものを選択して安全に食べていく直接訓練と筋肉トレーニングや動きのトレーニングなどを行う間接訓練があります。重要なことは、間接訓練だけで食べられるようにはなりません。直接訓練のように、実際に口から食べることと並行して間接訓練を実施しなければ十分な成果は出ません。今回は、間接訓練について考えていきましょう。

1 訓練実施のポイント

皆さんも筋肉トレーニングは経験したことがあると思います。運動部であったり体育の授業であったり。例えば腕立て伏せ。指導者に「腕立て20回始め!」と指示されてやりませんでしたか?もし、その時の指導者が、筋肉を指差しながら「鍛えられる部位としてはここにある大胸筋、腕の前にある上腕二頭筋、後ろにある上腕三頭筋です。手を肩幅位にして地面につけてやると上腕三頭筋、手を広げると上腕二頭筋が鍛えられます。その筋肉を意識してやってみましょう!」と指示したらどうなると思いますか?単に「20回やれ!」というよりも明らかに成果が出ることは想像できます。また、ある海外の実験で、ホテルの客室清掃員の方に「皆さんの仕事は脚力、腕力、腹筋、背筋を使った総合トレーニングです」という話をして3か月後、全員が痩せたというものもありました。訓練をする時は、その目的、鍛えるべき部位、期待される成果をしっかり理解してもらうことが重要です。

 

2 間接訓練の種類

口から食べるためにいくつもの訓練があり、専門的なセラピストごとに利用するものも異なります。そこで、ここでは、「噛むことが難しくなった時の訓練」と「飲み込むことが難しくなった時の訓練」に大別してみましょう。もちろん食べること自体、噛むことと飲み込むことで分断されているわけではないので、両方に効果あるものもたくさんあります。

噛むことが難しくなった時の訓練の代表として舌や頬、唇の訓練やアタリメ噛み訓練などがあります。飲み込みが難しくなった時の訓練として前回お話した嚥下おでこ体操や開口訓練などがあります。

 

3 噛むための訓練

噛むといったとき、皆さんのイメージとしては強い歯、噛む力などを創造されると思いますが、噛む運動で最も重要な働きをしているのは舌です。舌を唇より外に出して前後上下左右動かしていくといった訓練をしたり、早口言葉を発生してもらったりすることもあります。舌のトレーニング器として開発された「ペコぱんだ🄬」(株式会社ジェイ・エム・エス)もあります。これには様々な強度のものが用意されており、パワーアップのために硬めを選択することもできますし、持久力アップのために柔らかめを選択することもできます。

また、実際にアタリメを使った訓練もあります。短冊状になったアタリメを奥歯で噛み、それを右から左、左から右といった具合に移動させていきます。この時、移動は舌だけで行うようにします。

 

4 飲み込むための訓練

飲み込みの訓練として、手軽に行えて、効果の高い嚥下おでこ体操が挙げられます。この時重要なのは、のど仏の上の部分に力が入っていることです。開口訓練は口を思いっきり開けて、10秒間その状態をキープするというものです。これも口を開けているときにのど仏の上の部分に力が入っていることを確認します。

専門的な学会によると、間接訓練だけでも30以上あるそうです。どれが一番効果あるのか?ではなく、どの訓練が自分にとって必要で、一番実施しやすいかというのが選択基準です。「少し食べることが難しくなった」とか、「食べられなくなるのは嫌だから今のうちから訓練しよう」という段階であればさほど専門性も必要なく、「お口の体操」といったイメージでいいかもしれません。しかし、実際に口から食べることに障害が出てきたら専門職の診査、診断のもと、正しい訓練を実施してください。

 

次回は、口から食べることが難しくなった時の食事の工夫(直接訓練)について考えていきましょう。

歯科医師 五島朋幸

 

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