第13回「口腔ケアのその前に」

公開日:2023/04/26

 お口の中はきれいにしておかなくてはならない…ということは皆さんご存知だと思います。高齢者の誤嚥性肺炎予防というだけでなく、むし歯や歯周病の予防のためにもお口をきれいにしておくことが重要ということは皆さんご存知だと思います。ですから歯磨きが必要です。ただ、その前に少し知っておいていただきたいことがあります。今回は口腔ケアを知るための基礎知識をお話ししましょう。

1 細菌数をコントロールする

「お口の中が汚れる」ということを考えるとき、食べカスがいっぱい口に残っている状態を想像する人もいるのではないでしょうか。それも確かに汚れている状態なのですが、お口をきれいにしておくという本当の意味は、お口の中の細菌数をコントロールするということなのです。むし歯や歯周病、誤嚥性肺炎の原因は細菌です。食べかすは細菌を増殖させる温床にはなりますが、細菌そのものではありません。逆に言うと、食べかすがないからきれいという訳でもありません。まず、ここを間違えないようにしましょう。

 

2 細菌の培養と減少

お口の中には常日頃から多量の細菌が存在しています。研究者によっても誤差が大きいのですが、通常300種類、数千億個が存在していると言われています。と言っても、毎日いつでもこのような数が安定的にいるという数ではありません。口の中というのは細菌培養に適した環境なのです。体温と同等の温度、唾液による湿気、食べ物のカスのような栄養があり、歯と歯の間、歯と歯ぐきの間、舌の表面のような細菌が潜り込みやすい場所が多くあります。つまり、日常的に細菌培養が行われ、口の中の細菌数は増えているのです。

では、口の中の細菌数は増加し続けているのか?そんなことはありません。実は細菌培養と並行して日常的に2つ、細菌数を激減することがあるからです。1つは歯磨き。皆さんも毎日ブラッシングをしていますよね。それは食べカスなどを取ることもありますが、細菌を除去しているのです。

そしてもう1つは何でしょうか?こちらの方が細菌の除去数としては多いかもしれません。それは、しっかり噛んで食べることです。噛むことにより唾液が分泌し、その洗浄作用や殺菌・抗菌作用によって細菌を減少させていくのです。ですから、食後すぐは食べかすなどはあったとしても細菌数としては少ないのです。ですから、しっかり噛んで食べられる人の口腔ケアよりも、口から食べられなくなった人の口腔ケアが重要なのです。

例えば、実際に家で生活しているとゴミがたまったり、洗濯物が散らかっていたり、物が散乱したりすることはありますよね。一方、田舎の実家に誰も住まなくなって10年たって、「あの家は使っていないからきれい」と思う人はいないでしょう。それよりも天井が落ちているんじゃないかとか、ネズミの巣窟になっているじゃないかとか心配してしまいます。そうなんです。使っている家は汚れるけど、使っていない家は朽ちるんです。口も一緒です。使っている口は汚れるけど、使っていない口は朽ちるのです。

ですから、しっかり噛んで食べることこそ最高の口腔ケアなのです。

 

3 バイオフィルム

さて、皆さんはバイオフィルムという言葉を聞いたことがあるでしょうか。テレビコマーシャルなどでもたまに耳にすることがあるかもしれません。バイオフィルムとは、いろんな細菌の集合体で、付着性があり、水洗いでは落ちないという特徴を持っています。台所のシンクの脇に置いてある三角コーナーを触った時、ヌルッとすることがありますよね。それがまさにバイオフィルムです。

お口の中に存在するバイオフィルムのことを「歯垢(デンタルプラーク)」といいます。水洗いでは落ちないという特徴があるのですからうがいではなく、ブラシでしっかりこすらなければ除去できません。ですから口腔ケア基本のキはブラシで物理的にこすることなのです。

 

次回は口腔ケアの誤嚥性肺炎予防効果についてお話ししましょう。

歯科医師 五島朋幸

 

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