第6回「飲み込みの動き」

公開日:2022/09/27

 口から食べる一連の動きは、食べ物を口に入れる、しっかり噛む、のどに送り込む、そしてゴクリと飲み込んで食道に入れていくということです。飲み込みの動きとは、送り込まれた食べ物、飲み物が食道に入るまでの動きだと思ってください。わずか数センチの距離なのですが、単に1本の管を移動していくだけではありません。少し複雑な動きがあるために窒息や誤嚥が生じてしまうのです。 実はこの飲み込みの動き、私たちのようなものから言うと「融通の利かないやつ」なのです。皆さんも想像つくと思いますが、噛むことはとても複雑な動きをします。右の歯で噛んだり、左の歯で噛んだり、噛まずに送り込むような動きもします。食べるものやその形態によってもその動きを変えていきます。しかし、飲み込みの動きは基本同じです。入ってきたものの形態の差によって動きを変えることはありません。だからしっかり噛んで飲み込める形になっていないと事故が起こってしまいます。

1.のどの動き

食べ物、飲み物を食道に送り込むことが飲み込みの目的です。問題は、のどには食道と息をするための気管が存在していることです。配置で見ると、気管が前、食道が後ろにあります。もし、口から奥に入っていき、食道しか存在しなければ誤嚥も窒息も起きないのです。その代わり…口で息をすることも発声することもできないということになります。呼吸や発声と、食べること、飲むことを同時にできるために作られた特殊構造なのです。
普段、気管と食道が両方とも口を開けているわけではありません。普段は気管の口だけ開いていて、食道の入り口はすぼまっています。食べ物、飲み物が通過するときだけ食道の入り口が開きます。この時、気管の口はすぼまるのではなく、蓋(ふた)がされます。簡単に言うとこれだけです。
ちょっとだけ詳しく話をします。気管は硬い管で食道は柔らかい管です。普段は気管が前方から食道を押さえるような構造になっており、食道の入り口がつぶされた状態になっています。それが食べ物、飲み物が入ってきたときは気管が前上方に移動し、つぶされていた食道の口が開くという動きです。

2.飲み込みの障害とは

さて、嚥下障害と言われる飲み込みの障害では何が起きるのでしょうか。いろんな疾患や障害によって気管の蓋の動きが悪くなったり、動かなくなったりすることがあります。また、食道の入り口の開きが悪くなることがあります。このような時に起こる現象は3つです。1つは、食べ物、飲み物が気管の蓋の上に残ってしまうケース、2つめは食道の入り口に残ってしまうケース、そして3つめは気管に落ちていってしまうケースです。もちろん、気管の蓋や食道入り口に残ったものが気管に落ちていくこともあります。
気管にものが落ちていくとどうなると思いますか?皆さんも経験あります。そうです。むせるんです。むせるという反射は、気管に入っていったものを出す動きなのです。実は、先ほどの3つの現象によってむせるタイミングが異なります。逆に言うと、むせるタイミングによって何が起こっているか推測できます。
食べ物、飲み物をのどに入れてすぐにむせるケース。これは気管に直接入っていくケースです。イメージとしては「ゴックン、ゴホゴホゴホ」です。一方、時間差でむせる人がいます。食べてから1分後くらいにむせたり、食事が終わって何分かたってからむせたり、椅子からベッドに移乗しようとしたらむせたりすることもあります。これは気管の蓋の上や食道の入り口に何らかのものが残っており、ある程度の時間が経ったり、姿勢が変わったりすることで気管に落ちている様子です。

どうですか、皆さん。何となくでも飲み込みのメカニズムがわかりましたか?意外と単純な動きですよね。次回は、このような飲み込みが悪くなった時の対応についてお話ししましょう。

歯科医師 五島朋幸

 

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