第5回「飲み込みと姿勢」

公開日:2022/09/27

 口から食べるということを分解して考えてみると、食べ物を口に入れる、しっかり噛む、のどに送り込む、そしてゴクリと飲み込んで食道に入れていくということです。皆さんが食事をする時はそんなことは意識せずに食べているとは思いますが、この過程の中で意外と重要なのはその姿勢です。そこで今回は、飲み込みの機能を理解する上で大切な食べるときの姿勢について考えていきます。

1.食事の姿勢と動作

まず皆さん、天井を見上げて水分や唾液を飲んでみましょう。いかがですか?普段は何気にものを食べたり、飲んだりしているのに上を見て飲み込むだけでいつもと違ったのではないでしょうか。力を入れて飲まなくてはならなかったり、いつもは音がしないのにのどからゴクッと音がしたり。
もちろん天井を見ながら食べたり飲んだりはしませんが、これはとても飲み込みにくい体勢です。そうなのです。機能が正常であっても姿勢が悪ければ飲み込みにくくなるのです。ましてや、食べる能力が低下している方が崩れた姿勢になるだけで飲み込めなくなるのです。
そしてもう一つ重要なファクターがあります。理想的な食べる姿勢がよく示されています。(下図参照例)。足底をしっかり床につけ、横から見た時、ひざは直角になるようにして背筋を伸ばし、軽く顎を引いた姿勢です。確かに、飲み込みにくい姿勢になる要素を省いていくとこのような形になります。しかしよく考えてください。皆さん同じ姿勢でずっと食べられますか?箸やフォークを持った手は動かなくてはならないでしょうし、食べ物を口に入れるときは体を前傾して迎えに行かなくてはなりません。コップの水を飲むときは少し顔が上向きになります。そうなんです。食事姿勢はとても重要なのですが、より広く、動作としても考えなくてはならないのです。

2.食事姿勢で食べられるようになる!

これは私自身が食事姿勢は本当に大切だ!と感じた例です。施設に入居した高齢男性。食事介助で食べておられたのですが、日によって食べられる日、食べられない日がありました。そこで私に診てほしいと施設から依頼がありました。私が診た日は「食べられる日」で機能的にも大きな問題がなかったため、食べられないのは覚醒や認知機能の問題ではないかと職員に話しました。その後も食べられたり、食べられなかったりしたのですが、後日、仲間のPTと福祉用具専門相談員が訪問をして姿勢と車いすの調整をしたその日から毎日食べられるようになりました。
その男性は職員の介助でベッドから車いすに移動していたのですが、車いすにまっすぐ座るとちゃんと足底が車いすのフットサポートに乗り、上半身も安定していたのですが、日によって少しずれて座らされると片方の足が少し浮いてしまっていました(1、2センチ単位)。そうすると上半身が横に傾いてしまい、それで倒れ込まないように首に力が入り、飲み込めない姿勢になっていたのです。この時はPTがそのねじれを見つけ、福祉用具専門相談員が車いすのフットサポートと背中のシートの調整をしてねじれが起きにくい環境調整をしました。
このように、姿勢で食べられなくなる方もいますし、姿勢を治すことで食べられるようになる方もいます。

3.食事姿勢と食事時間

食事姿勢を考える中で動作とも関与するのですが、食事時間も重要な因子となります。高齢な方で、食べる機能が落ちてくると食事時間が長くなる方がいます。本当に少しずつ食べていたり、途中休憩があったり。過去に1回の食事時間が2時間という方もいました。それは大げさにしても30分、1時間となってしまうと徐々に姿勢が崩れてくる方がいます。そうなるとさらに飲み込みが悪くなり、誤嚥のリスクが高まるだけではなく、食事時間がさらに長くなってしまいます。
このようなときは、姿勢が崩れたり、食べるスピードが落ちてくるタイミングで一度食事を中断して間食にしていくような手段がとられます。

さて、今回は飲み込みの機能を考えるうえで重要な食事姿勢とは何か?なぜ重要なのかを考えました。次回はいよいよ飲み込みの機能について考えます。

歯科医師 五島朋幸

 

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