第1回「ボーっと食べてんじゃねーよ!」

公開日:2022/09/27

 皆さんにとってもそうでしょう。食事は楽しみです。美味しいものを食べる楽しみ、好きな人と食べる楽しみ、好きな場所で食べる楽しみ。そしてもちろん、人間は食べたものでできています。食べたもので活動しています。
そんな口から食べるということですが、人間の体にとってそれ以上の効果もあります。今回はその観点から「食べる」を考えてみましょう。

1.驚異!口から食べる3つの効能

①脳を活性化する
②免疫力を向上する
③お口の細菌を減少させる

①脳を活性化する

皆さん、口はどんな働きをしていますか?食べる、しゃべる、息をする。他にも表情を作ったりします。冷静に考えて、これらの働き、人間が生きていく中でも重要な役割を果たします。ということは、想像に難くないとは思いますが、脳機能をかなり使っているということです。実際、脳からのアウトプット(運動神経)、脳へのインプット(感覚神経)とも1/4~1/3は口とつながっていると言われています。簡単に言うと、脳と口は密接に関与しているということです。
僕は歯科医師という立場で、在宅の現場で食べることが難しくなった方も多く見てきました。そんな中で、それまで一言も発しないし、目をあけることも少なくなっていた方が、ティースプーン1さじのゼリーを食べられるようになると目をあける時間が長くなり、少ししゃべっていただけるようになったというような経験もしています。脳と口は密接に関与しているのですから、少しでも口から食べるということは脳機能をかなり活性化するのです。

②免疫力を維持向上させる

皆さん「免疫」という言葉を聞いたことありますか?「免疫力が落ちて風邪をひいた」などと言いますね。難しいことはさておき、「自分の体を護(まも)るシステム」と思ってください。実は、口から食べることによって免疫力が維持、向上されることがわかっています。逆に、胃に直接チューブで栄養を入れる方法(胃ろう)など、いわゆるチューブ栄養だと免疫力が落ちてしまいます。
そもそも論として、この地球上で初めて顎を持った生物が発生した瞬間にできたのが免疫であると言われています。顎があるということは口から食べるということです。口から食べるということと免疫はダイレクトな関係とも言えます。

③お口の細菌を減少させる

お口の細菌を除去するためには何をしますか?歯ブラシですよね。実は、しっかり噛んで食べることによってもお口の細菌は減少します。しっかり噛むことによって唾液が分泌され、お口の細菌を弱毒化していき、ゴックンと飲み込んで消化していきます。したがって食後すぐのお口の細菌数はとても少ないのです。逆に、お口から食べることが難しく、チューブ栄養だったり、流動食のようなものを食べている方だと唾液分泌がされずに、お口の細菌数が増加してしまい、誤嚥性肺炎のリスクも高くなってしまいます。
しっかり噛んで食べることでお口は清潔に保つことができ、虫歯や歯周病予防、さらには口臭などを抑える効果もあります。

このように、口から食べることは楽しみや栄養のみならず、人間が生きていくうえで重要な役割を果たしているのです。もう一度自分の食事、そして食べることを見直してみてはいかがでしょうか。

2.最期まで食べたい!

数年前の話です。訪問診療の患者さんに、胃ろうという方法で、チューブから直接胃に栄養を入れている高齢の男性がいました。数年単位で胃ろうを使っていて口から食べることが難しくなっていました。訪問歯科の依頼があり、ベッドサイドで何かこの方にできることはないか、少しでも食べていただけないかと考えている時です。その男性がずっと1点を無言で見つめていました。何かと思いその視線の先を見ました。そこにはテレビがあり、旅番組でレポーターがその土地のものを美味しそうに頬張っていました。その時の男性の寂しそうな眼は今でも印象に残っています。やはり、生きている限り食べたいという欲求はあるのです。

3.口から食べることへの支援

口から食べることが難しくなることはあります。それに対する支援もあります。口から食べることの大切さ、意味を多くの方が理解することで、その方への支援へとつながるでしょう。

次回のテーマは、「噛む」です。単に歯があれば噛めるというわけではありません。どうやったら噛めるのか、さらにはその噛むことの効用についてお話しします。

歯科医師 五島朋幸

 

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