第47回 「歯磨剤の話」
公開日:2026/02/26

多くの方は毎日歯磨剤を使用しているのではないでしょうか。もちろん自分自身の歯磨きや介護としての口腔ケアとして。そこで今回は歯磨剤について少し詳しくお話してみようと思います。
「歯磨剤」の5つの基本構成
歯磨剤とは、歯を磨くときに使うペーストやジェルのことです。私の世代は「歯磨き粉」と言っている方も多いのではないでしょうか。私も「粉状」のものは見たことはないのですが、昔は塩や炭、貝殻の粉を使用していたそうです。現在では、市販品が数百種類以上あると言われていて、「爽快感」「ホワイトニング」「虫歯予防」などの言葉が並びます。そこで、実際に何が入っていて、どんな働きをしているのかを解説していきます。あなたの歯磨剤選びのヒントになるといいですね。
歯磨剤の基本構造は次の5種からなります。発泡剤、香味料、研磨剤、湿潤剤、そして各種薬用成分です。これらのバランスや成分を変えることによって多くの製品開発が可能になります。
発泡剤:汚れを浮かせるが、泡が多すぎると不快感や誤嚥リスクになる
香味料:爽快感を演出するが、味覚を鈍らせることもある
研磨剤:歯垢除去に有効だが、歯質を傷つける可能性もある
湿潤剤:口腔乾燥を防ぐ
薬用成分:むし歯予防・殺菌・抗炎症など
高齢者やケア現場で意識したい「成分選び」の注意点
歯磨剤選択時、あなたであれば好みのものを選択すればいいと思いますが、高齢者や入院患者では少し注意が必要です。嚥下機能が低下していたり、味覚が敏感になっていたり、粘膜が乾燥しやすかったりしているからです。そういう状況で歯磨剤利用する時のいくつか注意点を挙げておきます。
一番のポイントになるのは発泡剤。特に誤嚥リスクのある方だとむせてしまうことがあります。私は、高齢者ケアの現場では、発泡剤が無配合のものを選択しています。それと同時に注意していただきたいのが研磨剤です。高齢者の歯質は傷んでいることもあるので、研磨剤もできるだけないものを選択してください。意外な盲点としては、香料が強すぎると食欲が減退する方もいます。これは患者さんにも聞いてみてください。
逆にうまく利用していただきたいのは保湿剤系の歯磨剤です。使用の注意点としては、プロピレングリコールなど一部成分に対してアレルギーを発症する方がいます。使用していて異常があれば他のものに変更してください。
有効成分と保湿のメカニズム
さて、ここで1つ例を取って見てみましょう。ある商品の成分は次のようになっています。
有効成分:グリチルリチン酸ジカリウム
基材:精製水
湿潤剤:濃グリセリン、マルチトール液、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、キシリット(キシリトール)
増粘剤:カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム
pH調整剤:クエン酸ナトリウム、クエン酸
防腐剤:安息香酸ナトリウム
着香剤:香料
まず、有効成分であるグリチルリチン酸ジカリウムには、炎症を抑える働きがあります。歯周病の予防や口内炎のケアにも効果が期待される成分です。その原料は、古くから薬草として親しまれてきた「甘草(かんぞう)」──聞き覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。水に溶けやすい性質を持つため、歯磨剤だけでなく、スキンケア製品や目薬などにも広く使われています。安全性も高く評価されており、やさしいケアを支える成分のひとつです。
次に湿潤剤。いわゆる保湿成分です。ベースとなる濃グリセリンは、高い保湿力を持ち、口腔内のうるおいをしっかりと支えます。プロピレングリコールはその保湿効果を補い、キシリットは保湿に加えて虫歯予防の働きも期待される成分です。また、グリセリン脂肪酸エステルは乳化剤として配合されており、全体のなめらかさを整える役割を果たしています。逆に、アルコールフリーですから乾燥する成分が含まれていないということも保湿には役立ちます。
もう1つ、pH調整剤があります。クエン酸は、酸性に傾けることで清浄性や保存性を高めます。一方、クエン酸ナトリウムは、その酸味を中和し、弱アルカリ性の環境を保ちます。このふたつは、“攻め”と“守り”のように連携しながら、口腔内の環境を整えます。
こうしてみると、本当にいろんな効果を考慮して設計しているのがわかると思います。次回は、歯磨剤から保湿に特化した保湿剤についてお話しましょう。
五島朋幸(歯科医師/食支援研究家)
1965年広島県生まれ。
ふれあい歯科ごとう代表、新宿食支援研究会代表、日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。株式会社WinWin代表取締役。
1997年より訪問歯科診療に取り組み、2003年以ふれあい歯科ごとうを開設。
「最期まで口で噛んで食べる」を目指し、クリニックを拠点に講演会や執筆、ラジオのパーソナリティも務める。
Contents
- Introduction
- 第1回「ボーっと食べてんじゃねーよ!」
- 第2回「噛めば噛むほど」
- 第3回「噛むことと認知症予防」
- 第4回「美味しさの正体」
- 第5回「飲み込みと姿勢」
- 第6回「飲み込みの動き」
- 第7回「飲み込みが悪くなったときにできること」
- 第8回「口から食べるための訓練」
- 第9回「食事の工夫」
- 第10回「舌の役割」
- 第11回「入れ歯の話①」
- 第12回「唾液の話」
- 第13回「口腔ケアのその前に」
- 第14回「口腔ケアの意義と効果」
- 第15回「誤嚥性肺炎予防」
- 第16回「口腔ケアの効果②」
- 第17回「口腔ケアグッズ」
- 第18回「口腔ケアの実際」
- 第19回「口腔ケアが困難な事例」
- 第20回「入れ歯の口腔ケア」
- 第21回「認知症と口腔ケア」
- 第22回「認知症と口腔ケア(実践編)」
- 第23回「認知症と入れ歯」
- 第24回「食べることと薬」
- 第25回「入れ歯の話②」
- 第26回「入れ歯と誤嚥性肺炎」
- 第27回「口腔内の変化」
- 第28回「残根の話」
- 第29回「口腔ケアグッズ②」
- 第30回「口腔ケアグッズ③」
- 第31回「ブラッシング法」
- 第32回「機能的口腔ケア(唾液腺マッサージ・嚥下体操など)」
- 第33回「食事介助」
- 第34回「SSK-O(食べる機能と食事の形態)判定表」
- 第35回「食事動作」
- 第36回「食支援とは」
- 第37回「食べることとリスクマネジメントの話」
- 第38回「食支援とそのプロフェッショナル」
- 第39回「多職種の食支援」
- 第40回「サルコペニア」
- 第41回「食事と環境と姿勢」
- 第42回「食べる機能の評価」
- 第43回「噛むことの評価」
- 第44回「飲み込みの評価」
- 第45回「食べることと薬の関係」
- 第46回「口と腸の関係」
- 第47回「歯磨剤の話」



