第22回「認知症と口腔ケア(実践編)」

公開日:2024/03/11

 私も口腔ケアのセミナーや講演などの際、受講者の方に認知症の方への具体的な口腔ケア方法を尋ねられ、答えに詰まることが多々あります。もちろんご本人を見ていないということもありますが、それほど多様性があり、その方への最適解を見つけるのは難しいのです。おそらく100%正解のケアというものはなく、現場で試行錯誤しながらより良いケアを探していくということだと思います。

 そこで、まず心構えとして、口腔ケアを長く実践していただけるよう、相手に不快な感情をできるだけ作らないということです。「口腔ケアをしなければならない」という使命感で力づくでやってしまうと、「歯ブラシ怖い、口腔ケア怖い、それをやるあなたも怖い」となってしまいます。今日できればいいという訳ではなく、長い目で見て口腔ケアが定着していくように考えていきましょう。

1 明るい雰囲気づくり

ここまでお話してきたのでもうお分かりだと思いますが、ポイントの1番目は口腔ケア実施場面の雰囲気作りです。無言、無表情の人が突然歯ブラシを口に入れようとするとご本人にとっては恐怖でしかありません。認知症の方への口腔ケアの最初で最大のポイントは、ご本人が安心できる雰囲気づくりをしていくことです。そのためにも、口腔ケアの前段階として、しっかりコミュニケーションをとることです。実は実際のブラッシングなどよりも時間をかけていただきたいポイントでもあります。
ある施設のベテラン職員の方がおっしゃっていました。口腔ケアの前にその利用者さんに毎日同じ話をするそうです。利用者さんもその会話が好きで、毎日同じ返答をしながら笑顔になります。そのタイミングで口腔ケアを始めるとうまくケアをさせてくれるというのです。翌日、同じ話をしてもご本人は記憶にないので同じような返答をしてくれ、笑顔になりスムーズに口腔ケアができます。まさにルーチンですね。

 

2 外から中へ

もう1つ重要なポイントは、いきなり口にアプローチをしないということです。手を握ったり、肩をさすったり、お顔に触れてみたり。前述のようなコミュニケーションをとりながらボディータッチもしていきます。一番やりやすいのは手からのアプローチだと思います。軽くなでたり、握手をしたりということをしながらお互いの距離を縮めていきます。その後口腔ケアすることやコロナの影響でグローブをしていることも多いのですが、可能な環境であれば素手の方がスキンシップをより図れると思います。そしてコミュニケーションをとりながら肩をさすったりしながら口へ近づいていきます。
最後に口までたどり着いてもいきなり歯ブラシを入れるのではなく、そこでも頬をマッサージしたり、唇を触ったりしながら抵抗感をなくしていきます。

 

3 歯ブラシを触ってもらう

3つめのポイントは、歯ブラシ(のような口の中に入れるもの)を実際に見て頂いたり、触っていただいたりすることです。それが何かわからないし、どんな硬さのものかわからないのが不安と恐怖になります。枝はとがっていなくて丸みがあり、ブラシも柔らかいということがわかれば少なくとも凶器ではないことを感じます。
ある歯科衛生士さんは、実際に口腔ケアをする歯ブラシと同系同色の歯ブラシの2本用意しておき、予備のブラシは患者さんと一緒に指で触る専用にしているそうです。確かに触ったものを口に入れるのも不潔だし、口に入れるものを素手で触るのも不潔なのでナイスアイディアだと思いました。

 

4 やさしく丁寧なケア

これはもう言わずもがなです。ご本人が不快な感情を持たないようにするにはケアそのものも優しく丁寧に実施しなくてはなりません。途中で拒否されるかもしれないからといって急いでやる方がいるのですが、それが思わぬ不快な行為になることもあります。

 

5 臨機応変な対応

これまで述べてきたとおり、認知症といっても様々な症状、状態があり、少しの工夫でうまくいくケースもあれば、どうやっても難しいというケースもあります。また、昨日まで大丈夫だったのに今日は拒否されるということもあります。マニュアルがすべてではありません。その日の現場の空気に応じて工夫していきましょう。

 

次回は、認知症と入れ歯についてお話しします。

歯科医師 五島朋幸

 

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