第46回 「口と腸の関係」
公開日:2026/01/27

この連載を目にしていただいているあなたには当たり前のことだと思いますが、「口から食べる」ということは人間らしさの象徴であり、日々の暮らしの中心でもあります。単に栄養摂取するだけではなく、噛むこと、味わうこと、誰かと食卓を囲むこと。そんな食べることが、実は私たちの“腸”を育てていることをご存じでしょうか。今回は食べることの先にある「腸活」にフォーカスしてみたいと思います。
腸内に住む「100兆個」の細菌と、その絶妙なバランス
腸活や腸内細菌という言葉は皆さんご存知なのではないでしょうか。そして何より、私自身のマイブームです。色々調べてみたり、実践してみたりしている今日このごろです。
腸内には、数百種類・100兆個もの細菌が住んでいると言われています。これらは善玉菌、悪玉菌、そして日和見(ひよりみ)菌に分類されます。
善玉菌は、ビフィズス菌や乳酸菌などが代表。腸内を弱酸性に保ち、悪玉菌の増殖を抑えたり、ビタミンを作ったり、免疫を整えたりと、私たちの健康を支えてくれています。一方、悪玉菌は、増えすぎると腸のトラブルメーカーになります。たんぱく質や脂質を腐敗させて有害物質を作り出し、便秘や肌荒れ、免疫力の低下などにつながることもあります。でも、悪玉菌も“ゼロ”にすればいいわけではなく、あくまでバランスが大切です。
そして、腸内細菌の中で最も多いのが日和見菌。その名の通り、腸内環境が良ければ善玉菌の味方に、悪化すれば悪玉菌の側につく、いわば“空気を読む菌”と言われています。この日和見菌たちがどちらに傾くかは、私たちの食べ方や生活習慣次第。だからこそ、善玉菌を優勢に保つことが、腸内の平和を守るカギになるのです。
幸せホルモンも作る「第二の脳」
かつては「善玉2:悪玉1:日和見7」が理想とされていましたが、最新の研究ではこの比率も個人差が大きく、単純な分類では語れないとされています。また、詳しく分類ができるようになり、以前は日和見菌と言われていたものでも、善玉菌や悪玉菌に分類されるようになったものもあります。ただ、多様な食事と生活習慣で善玉菌を優勢に保つことが、腸内環境を整える鍵であることは変わりません。
この腸内細菌のバランスが崩れると、便秘や肌荒れ、免疫力の低下、さらには気分の落ち込みにもつながると言われています。最近では「脳腸相関」や「腸は第二の脳」とも呼ばれるようになっており、幸せホルモンであるセロトニンの約95%が腸で作られているそうです。
腸を整え、心を整える食事のポイント
では、どうすれば腸内環境を整えられるのでしょうか。答えは、日々の食べ方にあります。たとえば、納豆や味噌、ヨーグルトなどの発酵食品は、善玉菌を届ける食材。海藻や野菜、玄米などの食物繊維は、善玉菌のごはんになります。さらに、オリゴ糖やイヌリンなどのプレバイオティクスは、善玉菌を育てる役割を果たします。色とりどりの食材を取り入れることで、腸内の多様性も育まれます。このような食習慣が、腸を整え、心を整えてくれるのです。
「口」は腸への入り口 。口腔ケアが腸内環境を守る
そして忘れてならないことがあります。口は腸の入り口です。口の中が清潔であること、よく噛むこと、唾液をしっかり出すこと。それらが消化を助け、腸までの道をスムーズにしてくれます。
最近の研究では、歯周病などで口腔内の細菌バランスが乱れると、腸内細菌にも影響が出ることがわかってきました。たとえば、歯周病菌(PG菌)は、唾液とともに飲み込まれ、胃を通過して腸に届く過程で腸内環境を乱す可能性があると報告されています。もちろん、私たちの体には胃酸という強力な防御機構があります。空腹時の胃はpH1という強酸性で、ほとんどの細菌はそこで死滅します。でも、食事中や食後は胃の中が弱酸性になり、細菌が生き延びて腸まで届くこともあるのです。逆に、歯周病の治療によって腸内細菌の構成が改善するという報告もあります。つまり、口腔ケアは腸内環境を守る第一歩になるのです。
私は歯医者ですのでどうしても関心が口に傾いてしまうのですが、腸から口腔を考えてみるのも面白いですね。
実は最近、ドラッグストアで歯磨剤を購入する機会がありました。まぁ、迷いますね。何を買っていいのか全くわかりません。そこで、次回は、少し深堀りして口腔ケア用の歯磨剤(ジェル)について解説します。
五島朋幸(歯科医師/食支援研究家)
1965年広島県生まれ。
ふれあい歯科ごとう代表、新宿食支援研究会代表、日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。株式会社WinWin代表取締役。
1997年より訪問歯科診療に取り組み、2003年以ふれあい歯科ごとうを開設。
「最期まで口で噛んで食べる」を目指し、クリニックを拠点に講演会や執筆、ラジオのパーソナリティも務める。
Contents
- Introduction
- 第1回「ボーっと食べてんじゃねーよ!」
- 第2回「噛めば噛むほど」
- 第3回「噛むことと認知症予防」
- 第4回「美味しさの正体」
- 第5回「飲み込みと姿勢」
- 第6回「飲み込みの動き」
- 第7回「飲み込みが悪くなったときにできること」
- 第8回「口から食べるための訓練」
- 第9回「食事の工夫」
- 第10回「舌の役割」
- 第11回「入れ歯の話①」
- 第12回「唾液の話」
- 第13回「口腔ケアのその前に」
- 第14回「口腔ケアの意義と効果」
- 第15回「誤嚥性肺炎予防」
- 第16回「口腔ケアの効果②」
- 第17回「口腔ケアグッズ」
- 第18回「口腔ケアの実際」
- 第19回「口腔ケアが困難な事例」
- 第20回「入れ歯の口腔ケア」
- 第21回「認知症と口腔ケア」
- 第22回「認知症と口腔ケア(実践編)」
- 第23回「認知症と入れ歯」
- 第24回「食べることと薬」
- 第25回「入れ歯の話②」
- 第26回「入れ歯と誤嚥性肺炎」
- 第27回「口腔内の変化」
- 第28回「残根の話」
- 第29回「口腔ケアグッズ②」
- 第30回「口腔ケアグッズ③」
- 第31回「ブラッシング法」
- 第32回「機能的口腔ケア(唾液腺マッサージ・嚥下体操など)」
- 第33回「食事介助」
- 第34回「SSK-O(食べる機能と食事の形態)判定表」
- 第35回「食事動作」
- 第36回「食支援とは」
- 第37回「食べることとリスクマネジメントの話」
- 第38回「食支援とそのプロフェッショナル」
- 第39回「多職種の食支援」
- 第40回「サルコペニア」
- 第41回「食事と環境と姿勢」
- 第42回「食べる機能の評価」
- 第43回「噛むことの評価」
- 第44回「飲み込みの評価」
- 第45回「食べることと薬の関係」
- 第46回「口と腸の関係」



