第23回「認知症と入れ歯」

公開日:2024/04/22

 今回、認知症の方と入れ歯の話をしようと思います。今回、この話を書こうと思って気づいたのですが、とっても重要な話で、あなたにとっても知識として持っていないと介護の現場で困る内容のはずなのに、このような内容の記事を見たことがないということです。私は訪問歯科の現場でより良い選択を考えているのですが、個別性が大きいため、原則的な話は確かに難しいです。そこで今回は、あなたの現場で考えていくための知識になる原則や対応法をご紹介したいと思います。

1 入れ歯は異物

入れ歯を使用されていない方は実感できないかもしれませんが、入れ歯はやはり異物です。良い入れ歯、悪い入れ歯などありますが、異物です。それと折り合いをつけて使用されている方がほとんどです。

この様なケースがあります。長年入れ歯を装着していて、外すこともほとんどないような使い方をしていたのに、認知症が進行し、入れ歯を入れると吐き出すようになったという方。入れ歯という異物を許容できなくなり、入れられなくなるということがあります。

ここでのチェックポイントはどのような食べ方をされているかということです。この段階で、入れ歯さえあればしっかり噛んで食べられる方は少なく、舌でつぶしたり、まる飲みされていたりします。そうであれば、入れ歯は使用しないという選択肢もあります。入れ歯を入れる行為自体がご本人のストレスになり、介護者との関係が悪化することもあります。その方が入れ歯を外して食べられる食形態にしていく方が得策のこともあります。なかなか歯科から「入れ歯を使用しないように」と言い出すのはつらいのですが、このようなケースは少なくありません。

 

2 入れ歯が壊れた

認知症が進行した方の入れ歯を新しく作るのは難しいです。入れ歯の作製過程としてはざっくり、「お口の型を取る―噛み合わせを記録する―歯並び確認-完成」という流れになります。総入れ歯のような大きな入れ歯の時、お口の中の型どりをするときから抵抗されることがあります。無理やり抑え込んで型を取ることもありますが、次の噛み合わせの記録はそれではできません。噛み合わせの位置の記録では、一般に次のような指示をします。「ゆっくり噛んできてください。そこで止めておいてください。動かないようにしてください」型どりで抵抗されるような方はこの過程ができないので入れ歯が作れないということになります。

さて、入れ歯が壊れてしまったときはどうするのか。もちろん多くの場合は修理が可能です。入れ歯の針金部分の修理は難しいのですが、総入れ歯であれば基本的に修理可能です。

そしてもう1つ知っておいていただきたいのは、コピーデンチャー(入れ歯をコピーしたもの)の存在です。すべての歯科医院で対応しているわけではないのですが、その存在は知っておいていただいた方がいいと思います。入れ歯の作製過程は前述したとおりですが、コピーデンチャーは、使っている入れ歯の型を取り(口の中ではなく)、そこにプラスチックを流し込んで作製するものです。認知症の方のご家族から予備を持っておきたいという希望があったりするので作製することがありおます。ただ、金属を使うわけではないので基本的には総入れ歯ということになります。

私自身は対応できないのですが、先端技術としてはCAD/CAMの技術があります。元入れ歯の情報をスキャンし、そのデータを保管しておけば、紛失などした時にすぐに3Dプリンターで作るというものです。これからまだまだ進化していくと思います。

 

認知症の方と入れ歯の問題を考えるとき、まずは入れ歯を使用できるのかどうかを判断していきます。もちろんそれは歯科医師が行います。使用できるのであればその方が不快なく使用できるよう調整します。しかし、入れ歯を入れることでプラスにならないようであれば入れ歯を使用しないという選択肢もあります。

また、認知症が進行した方の入れ歯作製は困難です。予備を作っておくとか、以前使用していたものをとっておくというようなことを考えた方がいいでしょう。

 

次回は、お口の状況とお薬について触れていこうと思います。

歯科医師 五島朋幸

 

Contents