第42回目 「食べる機能の評価」
公開日:2025/09/24
これまでも口から食べるということに対して多方面からお話をしてきました。今回はその口から食べる機能の評価についてお話をしたいと思います。
食べている姿はどうか
私の仕事柄、「食べる機能を診てください」とお願いされることがあります。では、そんなとき私は何をしていると思いますか?
例えば、骨折しているかどうかを調べるなら、レントゲンを撮るだろうと想像できますよね。でも、「食べる機能」の評価は、あくまで“動き”の検査です。つまり、実際に食べている様子を観察することが基本になります。そうです、まずは「食べている姿」をしっかり見ることから始まるのです。
では、口から食べることに問題がある方を評価する場面を想像してみてください。椅子に座っているその方は、目をしっかり開けて意識ははっきりしていますか?顔色はどうでしょう?痰が喉に溜まってゴロゴロ音がしていませんか?呼吸は苦しそうではありませんか?極端に痩せてはいませんか?
このように、まずは全身の状態を確認します。意識がはっきりしていないと、口から食べることは難しいですし、呼吸状態が悪ければ評価自体を延期することもあります。
特に注意が必要なのは「痩せ具合」です。口から食べることが難しく、十分な栄養が摂れないために痩せてしまう方は少なくありません。しかし、極端に痩せているということは、体力が著しく低下している可能性があります。実は、「口から食べる」という行為は、意外と体力を使う動きなのです。特に「噛む」動作は、かなりの運動量になります。そのため、極端に痩せている方に無理に食べさせると、かえって栄養的にマイナスになることもあるのです。こうしたケースでは、栄養補助食品などを活用して効率よく栄養を摂っていただいたり、胃ろうなどの代替的な栄養摂取方法を検討することもあります。
座っている姿勢はどうか
次に座っている姿勢はどうでしょうか。傾いていたり、ズッコケ座り(イスの背もたれに大きく身体を預け、腰を前へ投げ出すような姿勢)になっていませんか?また、足はちゃんと床についていますか?
これまで何度かお話してきたように、食事姿勢はとても重要です。体力、筋力がなくなると姿勢は崩れてきます。その姿勢のまま口から食べる評価をしてしまうと、能力以下の評価になってしまいます。できる限り正しい食事姿勢に整えてから評価を行うことが大切です。
食べる機能の評価(自力で食べれる方)
これまでのポイントに注意を払いながら、いよいよ実際に口から食べていただきます。ここでは、大きく分けて2つのパターンがあります。自力で食べられる方と、食事介助が必要な方です。今回は、自力で食べられる方について考えてみましょう。
箸やスプーンを使って食事を口に運ぶ際、食べ物をこぼしてしまってはいませんか?口に入れる量は適切でしょうか?また、食べるペースはどうでしょう。まだ口の中に食べ物が残っているのに、次々と詰め込んでしまってはいませんか?
こうした観察を通して、食事環境や認知機能の状態を評価することができます。例えば、こぼしやすい場合は食器の形状や配置に工夫が必要かもしれませんし、食べるペースが速すぎる場合は認知的な注意力や判断力に課題がある可能性もあります。
そして、最終的には「食べる機能」の評価に入ります。食べ物が口の中に溜まって、いつまでも残っていないか、そしてむせていないかという2点です。この2つの観察から、ある程度その方の機能を推測することができます。
口の中に食べ物が残る場合、主に2つの原因が考えられます。ひとつは噛む力が十分でなく、飲み込める形にできていないケース。もうひとつは、食べ物を喉の方へうまく送り込めないケースです。
一方、むせる場合は、飲み込みの機能(嚥下機能)が低下している可能性があります。むせ方にも種類があり、食べてすぐにむせる方もいれば、少し時間が経ってからむせる方、さらには食後にむせる方もいます。こうしたむせるタイミングからも、その方の嚥下機能の状態を推測することができます。ちなみに、むせないで誤嚥してしまう方もいます。そういった方は、喉に痰がたまりやすくなるため、痰の有無や量から誤嚥の可能性を読み取ることができます。
食べる機能の評価は、このような包括的な評価なので、診療室よりも生活場面のご自宅で拝見する方が得られる情報が多いことがあります。まさに私たち訪問歯科の出番です。
次回は、噛むこと、飲み込むことの機能評価について挙げていきます。
五島朋幸(歯科医師/食支援研究家)
1965年広島県生まれ。
ふれあい歯科ごとう代表、新宿食支援研究会代表、日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。株式会社WinWin代表取締役。
1997年より訪問歯科診療に取り組み、2003年以ふれあい歯科ごとうを開設。
「最期まで口で噛んで食べる」を目指し、クリニックを拠点に講演会や執筆、ラジオのパーソナリティも務める。
Contents
- Introduction
- 第1回「ボーっと食べてんじゃねーよ!」
- 第2回「噛めば噛むほど」
- 第3回「噛むことと認知症予防」
- 第4回「美味しさの正体」
- 第5回「飲み込みと姿勢」
- 第6回「飲み込みの動き」
- 第7回「飲み込みが悪くなったときにできること」
- 第8回「口から食べるための訓練」
- 第9回「食事の工夫」
- 第10回「舌の役割」
- 第11回「入れ歯の話①」
- 第12回「唾液の話」
- 第13回「口腔ケアのその前に」
- 第14回「口腔ケアの意義と効果」
- 第15回「誤嚥性肺炎予防」
- 第16回「口腔ケアの効果②」
- 第17回「口腔ケアグッズ」
- 第18回「口腔ケアの実際」
- 第19回「口腔ケアが困難な事例」
- 第20回「入れ歯の口腔ケア」
- 第21回「認知症と口腔ケア」
- 第22回「認知症と口腔ケア(実践編)」
- 第23回「認知症と入れ歯」
- 第24回「食べることと薬」
- 第25回「入れ歯の話②」
- 第26回「入れ歯と誤嚥性肺炎」
- 第27回「口腔内の変化」
- 第28回「残根の話」
- 第29回「口腔ケアグッズ②」
- 第30回「口腔ケアグッズ③」
- 第31回「ブラッシング法」
- 第32回「機能的口腔ケア(唾液腺マッサージ・嚥下体操など)」
- 第33回「食事介助」
- 第34回「SSK-O(食べる機能と食事の形態)判定表」
- 第35回「食事動作」
- 第36回「食支援とは」
- 第37回「食べることとリスクマネジメントの話」
- 第38回「食支援とそのプロフェッショナル」
- 第39回「多職種の食支援」
- 第40回「サルコペニア」
- 第41回「食事と環境と姿勢」
- 第42回「食べる機能の評価」