第18回 「在宅生活で使う福祉用具⑦ 食事用自助具~福祉食器について」
公開日:2026/10/22

今回は、食事の際に椅子・テーブルと合わせて使われる食事用自助具/福祉食器について、です。福祉食器というと何か特別なもの、というイメージがあるかと思いますが、まずは普通に使う箸やスプーンにも、配慮が必要です。
高齢者さんには普通に使う箸/スプーンにも配慮を
実は福祉食器を考慮する前に、当たり前に使っている箸やスプーンが、高齢者さんに合っているか?使いやすいものか?が不十分になってしまっていることが珍しくありません。
高齢者向けのスプーン
弱壮年者が日ごろ使っているような「カレースプーン」は、高齢者さまには使いにくいことがあります。スプーンの食事をすくう部分、スプーンヘッドと呼ばれますが、カレースプーンでは高齢者さまにはスプーンヘッドが大きすぎてしまうことがあります。大きすぎるスプーンヘッドでは、スプーンにたくさん食事が乗せられても口中に運べる量は少なくなってしまいます。
高齢者さまに使っていただくスプーンは、“ヘッドが小さめ”の方が良いです。ところが、ではとばかりにヘッドの小さなスプーンを準備すると、「ティースプーン」や「アイスクリームスプーン」みたいなものになりがちです。ヘッドが小さいのは良いのですが、今度はそれでは柄が短すぎてしまうのですね。また、カレースプーンでも柄は平らな板状のことが多いですが、指の動きが悪くなり力が弱くなっている高齢者さまにとっては持ちにくい柄になってしまいます。
つまり高齢者さまにとっても使いやすいスプーンとは、・ヘッドが小さめ、・柄は十分な長さがあって持ち握りやすいようにやや太柄になっている、といったものになります。この連載では具体的な製品を紹介することはなかったのですが以上の説明を具体的にイメージしてもらえるよう、著者の目から見て「これは十分/素晴らしい」と思える商品名を紹介しておきます。(Willassist社: ライト スプーンS)
高齢者さまの使う箸に対する配慮
一般的に箸は、男性用は長め/女性用には短め、といったものがありますが、同時に性別に関係なく準備されている箸もあります。小柄な女性高齢者が性別を問わない箸を使うと、長すぎてしまっていることがあります。
箸が口に運ばれるたびに顎を上げている方を見かけることがあります。箸が長すぎていると食事の操作もしにくいですし、顎を上げた摂食姿勢は誤嚥を誘発します。箸がちょっと長いかな?と感じられたら、使い捨ての割り箸を3㎝ほど短く切って使ってもらってみてください。また、長さがちょうど良くても細い箸は高齢者さまにとっては使いにくいです。指の動きや力の問題で、細い箸では思うように操作できません。握りの部分は十分に太い箸が良い、それも円柱形よりも四角柱形の方が操作がしやすいです。全体が塗り仕上げて滑りやすいものよりも、滑りにくい表面のものが良いことは言うまでもありません。
高齢者さまの使うお皿やカップに対する配慮
高齢者がお茶や牛乳、ジュースを飲む際には、「取っ手のあるマグカップ」を使うことが多くなります。十分に大きな取っ手のついたものが使いやすい形となりますが、同時に縦に長く細く深いカップは高齢者さまにとっては「飲みあげにくいカップ」になってしまいます。カップが細く深くなればなるほど、最後まで飲むのにカップ自体を大きく傾けないといけなくなるから、ですね。ですから高齢者さまのマグカップは、太目で低めのものがお勧めです。カップの形状としてはむしろティーカップのように「底が狭く上に広がっている」形の方が飲みあげやすいのですが、安定が悪くなりますし取っ手も小さくなりがちです。
皿については、どうしてもお皿の上の食事をつかみ損ね、すくい損ねてお皿の外にこぼしてしまうことが増えてしまいますからいっそのことグラタン皿のように、しっかり縁が立っている形の方が使い勝手が良い、ということが多いです。また、小鉢のような器はあまり深いものは食事が見えにくくなります。小鉢は小さく深いものよりも、逆に大き目で浅めのものがよい、となります。
福祉食器準備の前に、椅子/テーブル環境整備を
さて、以上のように箸/スプーンに配慮しても食べにくいということになってくると、いよいよ福祉食器の検討となるわけですが、その前に確認しておきたいことがあります。
それは「椅子テーブルがきちんとあっているか?」ということです。椅子テーブルについてはこの連載ですでに取り上げていますが、例えば、椅子が高すぎていて足が浮き気味になっていてテーブルも高すぎていて本人さまから食器の中が良く見えていないような状態では、いくら箸やスプーンやお皿食器を替えても食べにくいことは変わりありません。福祉用具のカタログにはたくさんの福祉食器が掲載されていますが、意外と普及していない~使われていないのは、この大切な大前提が満たされていないから、と考えられます。まずは「食べやすい環境と姿勢」を確保した上で、最後に福祉食器、というのが正しい順番となります。
自助具~福祉食器としてのスプーン・箸
福祉用具としてのスプーンを選ぶ際も上記の2点、スプーンヘッドの大きさ形と握りやすさ持ちやすさの点から選ぶこととなります。ただ太柄については、水分がしみ込まない素材でできているものの方が使い勝手が良いです。水分を含むようなスポンジ素材で太柄にしてある物や柄を太くするゴム素材と金属の間に水分がしみ込むようなものはしばらく使っているとカビが出やすいです。また、スプーンヘッドの柄に対する角度が変えられるもの、つまり柄に対してスプーンヘッドを真っすぐにしたりしっかり起こしたり、柄に対してヘッドを多少左右に向きを振られる方が、最終的に使いやすいスプーンになります。
福祉食器としての箸は、2本の箸の上の方に軸があって箸がピンセットのように動くものが代表的です。あらかじめ2本の箸が一膳として一体化していますから、手指の動きが多少悪くなっていても食事を操作しやすいです。ただし、握り込んだ時に箸先がクロスしてしまうものはあまり使い勝手がよくありません。2本の箸をつなぐ軸が平らな板が重なるような形になっていると箸先のクロス重なりが生じません。これもお勧め製品名を上げておきますが、この商品は指のガイド板もありますので「右手用・左手用」の別があります。(宇都宮製作所 箸ぞうくん)
自助具~福祉食器としての皿や椀
福祉食器の皿については色々な製品があります。縁の形状ですくいやすくしてあるものやテーブルの上でお皿が動かないように滑り止め加工してあるもの、大き目のお皿の上であらかじめ料理の境い目が設けてあるもの、お椀についても持ちやすく指を引っかける形の取っ手がついているものなど、カタログを眺めているのが楽しくなってくるようです。ただし、お皿やお椀を選ぶ時には、ぜひ「色」について考慮してください。真っ白のご飯茶碗の中に盛られたお粥は、高齢者さまにとってはとても見えにくいのです。もちろん本人さまの視力や認知能力にもよりますが、ご飯茶碗では特に、内側にも少し色のついているものの方が使い勝手がよいと思います。
以上、高齢者さまにとって使いやすい食器類について、随分細かいことまでまとめてみました。これは「まだ経験していない若壮年者には想像もできない事柄」であるわけです。私もまだ中年世代ではありますが、これまで高齢者さまの生活実態を見てきて気づいたことをまとめてみました。
大渕哲也(理学療法士/介護支援専門員)
1962年新潟県生まれ。
急性期医療機関・慢性期医療機関、特別養護老人ホーム・福祉用具レンタル販売業者等で勤務。
現在は民間介護事業所にて、社内研修・現場アドバイスなどを行なっており、その他民間セミナー業者や各種団体、全国各地の現場からの要請に応じて、研修や現場指導なども行なっている。
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Contents
- 第1回 「はじめまして」
- 第2回 「在宅療養介護生活で大切にしたいこと」
- 第3回 「まだ自立レベルでお元気な方」
- 第4回 「歩行に支障が出だしている/認知症初期症状の認められる方」
- 第5回 「歩行に支障が出だしている/認知症初期症状の認められる方 その2」
- 第6回 「実用的には歩けず移動は車椅子だが、自力で立って車椅子へ移る、トイレが自分でできる方」
- 第7回 「介助を受ければ立てる方」
- 第8回 「全介助でも立位は取れない方」
- 第9回 「四肢の変形拘縮があり寝たきりレベルの方」
- 第10回「在宅介護で使う福祉用具① 介護用ベッドその1」
- 第11回「在宅介護で使う福祉用具① 介護用ベッドその2」
- 第12回「在宅介護で使う福祉用具② 車椅子その1」
- 第13回「在宅介護で使う福祉用具② 車椅子その2」
- 第14回「在宅介護で使う福祉用具③ 腰かけトイレ」
- 第15回「在宅介護で使う福祉用具④ 入浴浴槽」
- 第16回「在宅介護で使う福祉用具⑤ 家具椅子など車椅子以外の椅子について」
- 第17回「在宅介護で使う福祉用具⑥ テーブルについて」
- 第18回「在宅介護で使う福祉用具⑦ 食事用自助具~福祉食器について」



