第17回 在宅介護で使う福祉用具⑥ テーブルについて
公開日:2026/08/21

今回は前回の椅子に合わせて使われることの多い「テーブル」について説明します。テーブルについて特段に知識が必要か?疑問に感じられるかもしれませんが、実は高齢者さまにとって食事の摂取状況に大きな影響を与え、ひいては誤嚥窒息事故の原因きっかけにもなりかねないテーマになりますし、実は高齢者さまにとってのテーブルの知識を持つことで成長中の子供たちの使う学習机を正しく準備してあげることにも直結することになりますから、やはり「大切な生活の知識」と言えます。
テーブルの適合~主に高さについて
テーブルの適合ということを考える場合、特に大切となるのはその「高さ」です。テーブル天板の高さがちょうどよいか?高すぎ・低すぎてはいないか?それが一番大切なこととなります。テーブル天板の高さとなれば「床から○㎝」とみてしまいがちですが、実はテーブルの高さは床からの高さではみません。
テーブルに併せて使う椅子が高ければテーブルも高くなりますし、和式の正座やあぐら座り姿勢で使う「ちゃぶ台」は低く作られていますね。つまり、テーブルの高さは併せて使う椅子の座面からの距離でみるものなのです。椅子の座面からテーブル天板までの距離のことを「差尺」と呼びます。差尺を利用者の体格に合わせて生活環境を整える、となります。
では、ちょうど良い差尺はどの程度なのでしょうか?一般的に食事摂取や読書、書字作業といった軽作業には、差尺を利用者の座高の1/3程度かそれよりも少し低い程度がよい、とされています。つまり、車椅子や家具椅子に座ってテーブルで食事を摂っている方を横から見て、テーブル天板が本人さまの座高の下1/3程度にきていることが望ましい、ということです。

椅子やテーブルの既製品のサイズと高齢者さまの適合状態
そうは言っても、事務作業用の椅子以外の家具椅子の座面高は変えることはできません。テーブルも同じで、医療介護用品として準備されているテーブル以外の一般家具としてのテーブルで、高さ調整できるものはほとんどありません。
では、一般に販売されている椅子やテーブルのサイズはどうなっているか?家具椅子の座面高はふつう42㎝程度です。テーブルの場合は一般家庭向けのダイニングテーブルも事務机も折り畳み長テーブルも、天板高は床から70㎝となっています。もっとも家具椅子の座面は最近の若い人の体格向上に合わせてか、座面高が44㎝程度になっている製品も増えてきています。
椅子座面高が42㎝の場合、上述の差尺は「テーブル天板高70㎝ ― 座面高42㎝ = 28㎝」となります。差尺が28㎝の状態は、皆さんにとってはどうですか?ちなみに筆者の身長は172㎝で座高は90㎝、となっています。私の座高の1/3は30㎝となりますから、既製品の椅子/テーブルの差尺28㎝がちょうどよい、と分かります。
既製品のテーブルとイスで身長172㎝の私が食事を摂ったり書字したりするとちょうどよいサイズだという事です。これは偶然ではありません。一般的な家具のサイズは、健常な成人男性を基準に作ってあるのですね。家具のサイズだけではありません、例えば箸やスプーンといった食器のサイズや廊下の壁く手すりの高さや壁の電気スイッチの高さ、ドアノブの高さなどなど、あらゆる生活環境が健常者な成人男性に合わせて作られています。健常な成人男性にちょうどよく作られている椅子/テーブルを高齢者が使うとどうなるか?椅子に深く腰かけると踵が浮き、テーブル天板が座高の真ん中どころか上1/3くらいにきてしまう、当然のことですね。
高すぎるテーブルで起きてくる支障状態
つまり一般に高齢者さま、特に女性高齢者さまにとって、テーブル高が高すぎてしまっている事が多いのです。皆さまの身近なところで女性高齢者が食事を摂っている様子をぜひ確認してみてください。テーブル天板が本人さまの座高の下1/3程度になっているか?真ん中くらいか?座高の上1/3くらいになっているか?思いのほか、高すぎてしまっている方が多いと思います。では、テーブルが高すぎているとどういう支障状態が生じるか?整理しておきます。
・テーブルが高すぎて、食器の中の料理が見えにくい。
・箸やスプーンを「横」に運ぶこととなり、食べにくく食べこぼしが増える。特にうどんやラーメンなど麺類は食べにくい。
・高いテーブルを迎えるように顎が上がりやすい。顎が上がればむせやすく、誤嚥しやすくなる。
皆さんも想像してみてほしいのですが、例えばラーメン丼が胸もとや喉の高さに置いてあったら、食べにくそう!とイメージできるのではないでしょうか? 小柄な高齢者さんでも認知機能や上肢機能がしっかりしている方はいちいち小皿ごとに、高すぎるテーブルから太ももの上へ手で持ち下ろして食べていらっしゃる方もいらっしゃいます。
テーブルと椅子との高さが合わない時はどう対応するか?
そうは言っても、一般家庭で使われるダイニングテーブルで高さ調整できるものはありません。介護用品としての車椅子用テーブルであれば高さ調整できますが、ご家族さまとは別に高齢者さまだけ一人で、というのも寂しいお話です。
テーブルを下げたいのに下げられない時にどうするか?結論的に言うと、椅子を高くする、ということになります。椅子座面が高くなれば相対的にテーブル面が下がるわけですね。もちろん椅子が高くなれば足が床に届かなくなりますから、ちょうど良い高さの足台も必要、となります。小柄な女性高齢者の場合、座高は60cm程度の方が珍しくありません。60を3で割ると20㎝となります。つまり、テーブルが70㎝の場合に差尺を20㎝にするには、椅子の座面高は50㎝にすればよい、となり、42㎝の高さの椅子を8㎝ほど上げればよいとなります。実際には10㎝近くも高くしてしまうと怖くも感じられてくると思うので、5㎝程度でも構いません。差尺が5㎝下がるだけで、随分と食事摂取しやすくなります。
また、足台に上り下りしながら高くなっている椅子に立ったり座ったりするのは大変、と感じられると思います。そんな時は先回の最後にも紹介した「電動で座面が昇降する椅子」があると非常に便利です。低い状態で腰かけてから、ちょうどよい高さまで座面を上げて足台に足を乗せるようにすれば、非常に快適であると同時に安全でもあります。
そして今回のお話を成長中のお子様の、勉強机と椅子にも当てはめてみてあげてほしいと思います。勉強机についている椅子は高さが調整できるようになっています。勉強机と椅子の差尺が座高の下1/3になるように、椅子の高さを調整してあげてください。
大渕哲也(理学療法士/介護支援専門員)
1962年新潟県生まれ。
急性期医療機関・慢性期医療機関、特別養護老人ホーム・福祉用具レンタル販売業者等で勤務。
現在は民間介護事業所にて、社内研修・現場アドバイスなどを行なっており、その他民間セミナー業者や各種団体、全国各地の現場からの要請に応じて、研修や現場指導なども行なっている。
Contents
- 第1回 「はじめまして」
- 第2回 「在宅療養介護生活で大切にしたいこと」
- 第3回 「まだ自立レベルでお元気な方」
- 第4回 「歩行に支障が出だしている/認知症初期症状の認められる方」
- 第5回 「歩行に支障が出だしている/認知症初期症状の認められる方 その2」
- 第6回 「実用的には歩けず移動は車椅子だが、自力で立って車椅子へ移る、トイレが自分でできる方」
- 第7回 「介助を受ければ立てる方」
- 第8回 「全介助でも立位は取れない方」
- 第9回 「四肢の変形拘縮があり寝たきりレベルの方」
- 第10回「在宅介護で使う福祉用具① 介護用ベッドその1」
- 第11回「在宅介護で使う福祉用具① 介護用ベッドその2」
- 第12回「在宅介護で使う福祉用具② 車椅子その1」
- 第13回「在宅介護で使う福祉用具② 車椅子その2」
- 第14回「在宅介護で使う福祉用具③ 腰かけトイレ」
- 第15回「在宅介護で使う福祉用具④ 入浴浴槽」
- 第16回「在宅介護で使う福祉用具⑤ 家具椅子など車椅子以外の椅子について」
- 第17回「在宅介護で使う福祉用具⑥ テーブルについて」



