第15回 在宅介護で使う福祉用具④ 入浴浴槽

公開日:2026/04/22

入浴介護 介護用浴槽

今回はお風呂の浴槽について、です。浴槽は福祉用具ではなくあくまでも一般生活用品ではありますが、在宅生活のあり方を大きく左右する要素であり、残念な事故の原因ともなる場面なので取り上げたいと思います。

浴槽の形の種類

 家庭用の浴槽の形には大まかに言って3種類ほどあります。その浴槽のタイプごとに高齢者さまにとって入りやすさ~入りにくさの違いとなる特徴がありますので、まずは整理しておきましょう。

真四角の「和式浴槽」

伝統的な日本の浴槽です。最近は一般家庭ではあまり使われませんが、狭いアパートやビジネスホテルでは未だに見かけます。底が平らで壁が4面ともほぼ垂直の真四角な形になっています。縦横サイズは他の2タイプに比べるとあまり大きくはなく、一番小さいものでは奥行き(浴槽内で足を伸ばす方向)サイズは90㎝程度しかありません。その分、深めにできており60㎝程度の深さとなっています。

つまり、「狭くて深い」浴槽です。小柄な高齢者にとっては、実は浴槽に入ってしまえば狭めの浴槽が身体を支えてくれるので安定して入っていられます。ところが深さが60㎝もあるので小柄な高齢者にとっては跨ぎ出入りすることが難しいです。特に浴槽と床の関係が大切で、床に対して「浴槽半埋め込み」に仕上げてあれば洗い場床から浴槽縁までは30㎝となりますが、据え置き式では床から浴槽縁までが60㎝となってしまい、浴槽に出入りするのは不可能となってしまいます。

洋式バスタブ

寝そべるような形で浴槽内に入るタイプです。浅めにできており、奥行きは足を伸ばせるよう、大変に長くできています。また、背中を預ける壁は身体を倒せるように大きく斜めになっており、足元側は足を突っ張れるように垂直になっています。お湯の中で身体を横たえるので足を突っ張らないと身体がお湯の中に沈み込んでいってしまいます。高齢者にとっては浅くできているので浴槽への出入りはしやすいのですが、小柄な高齢者では足が壁に届かず身体がお湯に滑り込みそうになり、大変に怖いものです。浴槽の奥行きサイズが大きすぎるのですね。実際に虚弱な高齢者では、大きすぎる浴槽内への「滑り込み溺死事故」が起こってしまうことがあります。

和洋折衷式

上記のように、和式浴槽と洋式のバスタブは全く異なる構造~サイズとなっていますが、現在主流なのは両者の特徴を併せ持った和洋折衷式です。背中を預ける壁は少しだけ傾いていて足元側は垂直に近くなっており、深さは50㎝程度、奥行きは若い人でも足を伸ばせるように長めになっていますが、足を曲げて壁につけることもできるよう、浴槽の底の足元側が浅くなるように2段底に仕上げてあるタイプもあります。

 以上3つのタイプのうち、高齢者にとって使いやすいものはどれか?筆者からするとこれが理想!と思えるタイプはありませんが、絶対に避けたいのはバスタブタイプです。和式や和洋折衷式で、ちょっとした工夫^機器の追加で使いやすいようにしてあげることが大切、となります。

浴槽への出入りがしやすい条件と工夫

浴槽の使いやすさは、

●浴槽への出入りがしやすいか? 

●浴槽内で身体が安定するか?

の2点をそれぞれ考慮する必要があります。まず出入りのしやすさについては、立ったままで跨ぎ出入りするために片足を持ち上げて浴槽壁を跨ぎ、その先で足が浴槽底に届くこと、が必要です。そのためのサイズは、半埋め込みで「洗い場床から浴槽縁までの高さ」が30㎝~35㎝程度であること、浴槽の深さが50㎝弱であること、となります。

浴槽深さが60㎝もある和式浴槽では浴槽に出入りしようにも浴槽底に足が届かない、ということが起こります。その際には「浴槽内椅子」を沈め置くことで対応できます。立ったままで跨ぎ出入りすることが難しいならば浴槽に横づけする形で洗い場に腰かけ台を置いて、そこにお尻を腰かけながら足を出し入れする、という形になります。お尻を下ろしながら足先が浴槽底に届かせないといけませんからなおさら深すぎてしまうということが起こりやすくなりますので、和式浴槽に出入りするために「浴槽内椅子」と「出入り腰かけ台」を併せ使うパターンが多くなります。以上の対応は和洋折衷式浴槽の場合もほぼ同様になりますが、和式浴槽よりは浅めになっているので出入り腰かけ台だけで対応できる場合が多くなります。

浴槽湯内での体の安定~沈み込み事故予防のために

 浴槽内溺死事故の予防のためには、「浴槽湯内につかっている時に、“腰から背中”が壁に当たっている上で“足先”も浴槽壁に届いており、“肩の左右どちらか”も壁に対して横に寄りかかっている」状態となっていることが必要です。特に足先が壁に当たっていることが大切で、足先が壁に当たっていないと途端に怖い!状態となってしまいます。浴槽湯内への滑り込み溺死事故も足が壁に届いていないことが、大きな誘因となります。浴槽サイズと本人さまの体格の関係で足が壁に届かない場合は、浴槽内に臨時の壁を沈ませ置いてあげたいところですが、なかなか良い手段~機器がありません。またここまでの説明で、『温泉施設の大浴場』や『特養など大規模な介護施設でも使われている4~5人用浴槽』が高齢者さまにとって大変怖いものであり危険なものであることがご理解いただけると思います。

高齢者の体格サイズと理想的な浴槽は?

 浴槽への出入りのしやすさも浴槽内での体の安定も、「浴槽サイズ」と利用する人の「体格サイズ」の適合が大切なことが分かります。では実際の高齢者さまの身体の「どの部分の体格サイズ」を見ればよいのか?改めて考えてみましょう。浴槽の奥行きサイズ、背中から足先を伸ばす方向のサイズは、お尻を床について足を前に伸ばして座った姿勢(長座位)の際の「足底から骨盤の後面まで」の距離、ということになります。その具体的な数値は小柄な女性の場合で約90㎝です。

浴槽の深さは同じく長座位の際の「床から肩口(肩峰)まで」の高さとなり、それは小柄な女性高齢者の場合で45cm程度となります。和式浴槽の深さは60㎝だと先述しましたが、肩までが45㎝の高齢者の場合は頭のてっぺんまで、つまり座高が60㎝程度です。縁までお湯が張られていると、頭頂まで完全に水没してしまう深さです。浴槽が深ければお湯を浅くまでしか張らなければ良い、と思われるかもしれませんが、お湯面から浴槽縁までのお湯が張られていない壁は、浴槽に出入りする時の「バリア、障壁」にしかならないわけです。

『小柄な高齢女性が安楽に出入りできて、つかっていて怖くない浴槽は、深さ50㎝弱、奥行き90㎝』というのはこれらの実際の体格サイズからきています。ちなみに筆者の身長は172㎝程度で男性として平均的な体格だと思いますが、長座位になった際の「お尻から肩口まで」の高さが60㎝です。伝統的な和式浴槽の縁までお湯を張って私が入浴すると、ちょうど肩口までつかれるわけですね。このように汎用される生活用具や建物の様々なサイズは、大体平均的な体格の男性に合わせて作られています。平均的な172㎝の男性にちょうど良い深さの浴槽では、小柄な女性では溺れてしまうのも当然なのですね。身体機能が衰えてきた高齢者が安楽安全に過ごせるよう、様々な生活道具を見直してあげたいものです。

来月は同じく福祉用具というよりは生活用具というべき「テーブル/家具椅子」について取り上げます。

プロフィール

大渕哲也(理学療法士/介護支援専門員)
1962年新潟県生まれ。 急性期医療機関・慢性期医療機関、特別養護老人ホーム・福祉用具レンタル販売業者等で勤務。 現在は民間介護事業所にて、社内研修・現場アドバイスなどを行なっており、その他民間セミナー業者や各種団体、全国各地の現場からの要請に応じて、研修や現場指導なども行なっている。

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