第14回 「在宅介護で使う福祉用具③ 腰かけトイレ」

公開日:2026/04/22

介護用トイレ 介護排泄介助 トイレの選び方

今回は、虚弱な高齢者さま方にとっての「トイレ」についてまとめてみます。現在、一般家屋では「和式トイレ」はほとんど見られなくなりました。最近の建築では「男性用立ち小便器」も無くて『腰かけトイレのみ』という家屋も珍しくはないようです。おむつが主な排泄手段となってはいても、介助で起立することができる方ならばトイレ/便器との縁は続くかもしれませんし、ぜひ続いてほしいものです。

 高齢者さまにとっての腰かけトイレを見るポイント

では、高齢者さまが腰かけトイレを使う場合に配慮すべき点は何か?ずばりまずは2点、便座の高さと便座穴の大きさ形状の、利用者さまへの適合具合です。よく見られる不適合状態は特に女性高齢者さまの場合に、①便座が高すぎる、②便座穴が大きすぎる、という状態です。

便座高が高すぎると?!

腰かけトイレの高さは、「便器本体の高さ+(跳ね上げることのできる)便座の厚み」となります。便座高が高すぎていると浅く腰かけてしまうことになります。そうなってしまうのは高齢な女性のことが多いわけですから、浅かけで排尿すると尿が便器内に収まり切れず、便器前の床を汚してしまうことになります。特に最近の腰かけトイレは昔の製品に比べて便座高が高めになっています。便器本体の高さが時代によって違うのですね。

〇トイレ本体の高さの歴史的変遷

1960年代〜1990年代前半: 約350mm〜370mmが標準的(やや低い)。

1990年代〜2000年代: 370mm〜380mm程度が主流に。

2006年頃〜現在: 約380mm〜420mmが主流(高めの傾向)。

こんなふうに、新しいほど高くなってきています。また、この表の数値はあくまで便器本体の高さですから、実際の高さは合わせて使われる便座の厚みが加わって実際の便座高になるわけです。昔のただのプラスチック板の便座は厚みが3cm程度、最近のウォシュレット+保温機能のついた便座だと厚みが5㎝を越えることもあります。やや古めのトイレ+ただのプラ便座の場合の高さは40cm程度、新しいトイレとウォシュレット便座では44cm程度になりますね。

結論的に言うと、小柄な高齢女性の場合は昔の40㎝程度が望ましいです。家具椅子の標準高が42cmですが、排泄の際にはしっかりと足を床に着けて軽いお辞儀姿勢になれることが理想ですから、若干低めが良い、となります。ただしウォシュレット便座を使っていると、よほど古い便器本体でないと、どうしても小柄な高齢女性には高すぎてしまう傾向にあります。そんな時は、厚みが3㎝から5㎝くらいのしっかりとした大き目の足台を便器前に置いてあげてください。

便座穴が大きすぎると?!

もう一つ、腰かけトイレの使用感に大きく影響を与えるのは、便座穴の大きさと形状です。例え便座高が高すぎず適切なものであっても便座穴が大きすぎていると、やはり「浅く腰かける」とうことが起きてしまいます。深く腰かけるとお尻が便座穴に落ち込んで、膝が突きあがってしまうから、です。浅く腰かければ便座穴の幅は狭くなりますからお尻の落ち込みが防げるわけですね。そうなるとやはり、便器前を汚してしまう、ということが起こります。便座穴については昔のただのプラ板便座の穴が大きく、新しいウォシュレット便座は様々な機構が盛り込まれているためか、便座穴はむしろ小さめになっています。便座穴については、現在主流となっているウォシュレット便座の方が高齢者さまには適切、ということになります。

一般家庭における腰かけトイレは家族共用になることも考えると結局、小柄な高齢女性さまにはやや高すぎる新しめの便器本体+ウォシュレット便座前に、ちょうど良い高さの足置き台を置いてあげる、という形が一番妥当になるのかもしれません。

また、ここまでの議論はポータブルトイレも全く同じことになります。ポータブルトイレはあくまでもご本人専用となり、また現在のポータブルトイレは「高さ調整」ができるものが主流ですので、あくまでもご本人が使いやすい形にしてあげてください。また、ポータブルトイレの高さ調整をする際に、便座が少しだけ前傾するように前を少しだけ低くしてあげると、排泄姿勢がとりやすくなりトイレからの起立動作も行いやすくなります。

 

様々なタイプが選べるポータブルトイレ

ポータブルトイレと言えば「介護用」がすぐにイメージされますが、実はそれだけではありません。非常災害時の避難所用や屋外キャンプ用を謳った製品もあります。昔からある介護用のポータブルトイレは基本的には『バケツに本体と便座がついている』形となりますが、周期の問題などどうしても使用に当たって抵抗感が生じますね。避難所用やキャンプ用まで選択肢を広げると、「二層式簡易水洗ポータブルトイレ」や「排せつ物が一回ごとにしっかりとした袋に収納され、自動的に新しい収納袋がセットされるポータブルトイレ」などがあります。ポータブルトイレの使用と後始末は毎日のこととなりますので、本人さまとご家族さま両方の希望を合わせ、できるだけストレスなく過ごせる生活環境を整えてあげてください。

 

腰かけトイレ前に「前傾を促す低めの肘つきテーブル」を

排泄時、特に排便時には、姿勢は「軽くお辞儀姿勢」になります。解剖学的に直腸から肛門にかけて、お辞儀姿勢いならないと便が出にくい形になっている~お辞儀姿勢をとると直腸から肛門が真っすぐになるような形になっているから、です。

ところが高齢になると、腰かけトイレの上で排泄時の「軽いお辞儀姿勢」がとりにくくなります。トイレの上で長い時間お辞儀姿勢になれないから便秘傾向となる、なんてことも起こりかねません。ですので便器の前に『肘から前腕を置ける低めのテーブル』があると、排便動作が大変に楽になります。もちろんトイレ前に置きっぱなしにはできません。トイレに腰かけたら脇から軽く引き寄せて腕が預けられるような、そんなテーブルがあったらよいですね。介護施設用には、トイレ前の側方壁からトイレ前に倒れてくるように動く手すりがありますが、サイズ的に一般家庭に設置は難しいと思います。

 

男性高齢者が腰かけトイレを立ち小便器として使う場合には

最初に書いた通り、最近の家屋では「男性用立ち小便器」がない場合も増えてきています。そうなると腰かけトイレを男性が排尿する際も使う、となります。跳ね飛び汚れの問題もあり、最近は「男性も腰かけて排尿を!」と家庭内で迫られている方も多いのではないでしょうか?もちろん、男性陣がそれを受け入れてくれればご家族さまのストレスも小さくなりますが、高齢男性の場合はどうしても下衣の上げ下げが面倒くさく、長年の習慣で立ったままで腰かけトイレに排尿される方も多いと思います。

そして身体機能がなお低下してきて同時に認知症の問題が生じてくると、思いもしなかった問題が生じてくることがあります。それは、「便座蓋や便座を上げないままで排尿しようとする」ということです。最近の便座には暖房機能が付いていますから、使っていない時は便座蓋まで下げ閉めておくことが基本になります。排尿のたびに、蓋と便座を上げ開けることを飛ばしてしまうのですね。ご家族さまがトイレに腰かけたら、便座が尿で濡れていた!なんてことが起きたらたまったものじゃありませんね。これはどうしようもありません、高齢男性者さまがいつトイレに行ってもトラブルにならないよう、あらかじめ「便座と便座蓋はいつでも上げておく~腰かける時だけ便座を下げる」ということをご家族の間でルールにしてもらうことが一番簡単な対応、ということになります。

 

以上、家庭内における虚弱高齢者さまにとっての腰かけトイレについてのいろいろ、についてまとめてみました。なかなか紹介されない情報までまとめてきましたので、ぜひご参考になさってください。

プロフィール

大渕哲也(理学療法士/介護支援専門員)
1962年新潟県生まれ。 急性期医療機関・慢性期医療機関、特別養護老人ホーム・福祉用具レンタル販売業者等で勤務。 現在は民間介護事業所にて、社内研修・現場アドバイスなどを行なっており、その他民間セミナー業者や各種団体、全国各地の現場からの要請に応じて、研修や現場指導なども行なっている。

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