第13回 「在宅介護で使う福祉用具② 車椅子その2」
公開日:2026/01/27

今回は車椅子その2として、「重度障害の方が在宅生活で車椅子を使う場合」についてもう少し深堀していきましょう。
重度な障害の方向け ~リクライニング車椅子とティルトアップ車椅子~
より身体障害が重度な方が使う車椅子は、普通の標準型車椅子に比べて背もたれが高くなっており、頭を預ける枕までついています。大きく分けて機能的には2つのタイプがあります。それは「リクライニング車椅子」と「ティルトアップ(振り子型)車椅子」の2種類であり、中にはその両方の機能を持つ車椅子もあります。
リクライニング車椅子の機能と特徴
リクライニング車椅子は「背もたれが座面に対して後方に倒れるように角度調整ができる車椅子」です。身体をしっかり起こさずにやや後方に倒したままで背中全体から頭まで支えてくれますから、より障害が重度な方向けとなるわけです。
しかし著者個人としては基本的にあまりお勧めできない、と考えています。理由は座面が水平に近い状態のままで身体を後方に倒す形になるので、絶えずお尻が前にずれそうになり身体全体が車椅子から滑り落ちるようになってしまうから、です。
座っていて楽ではないですし、姿勢も崩れやすくなります。特にリクライニング型車椅子の中でも「フットレッグサポート~背もたれ連動型」という背もたれを倒すとそれに連動して車椅子の足乗せ部分(フットレッグサポート)全体が持ち上がってくる車椅子では、本人さまの身体状況に関係なく車椅子の各部分が勝手に動きますのでうまく座っていられない、ということが頻回に起こります。
フットレッグサポート全体が持ち上がる動きは、身体側は「膝が伸びていく」という動きになりますので、特に膝関節が曲がったままで伸びない膝関節屈曲拘縮状態の方は「フットレッグサポート~背もたれ連動型リクライニング車椅子は禁忌」です。
それでもリクライニング車椅子が適応となる方は、「股関節が曲がらない」という股関節屈曲制限のある方です。椅子に腰かけた姿勢というのは、股関節が90度に曲がった姿勢です。ところが股関節が90度まで曲がらないと90度に足りない角度分だけ、身体が後方に倒れてしまいます。その確度だけリクライニング車椅子の背もたれを倒してあげればよいわけです。ただし前述のとおり座面が水平に近い分だけリクライニング座位姿勢は「ずり落ち」しやすいので、クッションの前方が盛り上がっている(アンカー構造)の車椅子用座面クッションを用いたら良いと思います。
ティルト(振り子型)車椅子の機能と特徴
ティルト(振り子型)車椅子とは座面と背もたれの角度(背座角)は一定のままで座面と背もたれの全体が一体として、少し上向く、という車椅子です。普通の椅子に腰かけたまま椅子の前の脚を浮かせた状態になる、ということです。
普通のダイニングチェアや標準型の車椅子では、座面は地面に対して3度ほどの傾きを持っていますが、ティルト型車椅子の場合は、20度から30度程度に上向かせることができます。座位姿勢が上向けば上向くほどリラックスできる姿勢となり、リクライニング車椅子のような前方へのお尻すべりも生じません。人の身体は意外と角度の変化には敏感なもので、標準的な椅子の座面角度の3度から6度程度に少しだけ上向いただけでもすぐに違いに気づくことができ、より背中に体重を預けてリラックスできることが感じられます。
30度まで上向かせると感覚的には上を向いて寝ている感じに近くなります。その分だけ、身体障害が重度な方でも車椅子に座って過ごす時間をより長くとることができます。逆にティルト型車椅子が不適応となるのは、股関節が90度まで屈曲しない方、となります。(股関節が90度まで屈曲しない方はリクライニング車椅子が適応、でしたね)全体として上向いていても身体の形は普通の椅子や標準型車椅子に座っている時と同じですから、股関節はきちんと90度までは曲がらないと車椅子と身体がフィットしません。
なお一部の高機能な車椅子の中には座面に対する背もたれ角度を変更できるリクライニング機能と座面と背もたれ全体を上向かせるティルト機能の両方を併せ持つタイプもありますが、どうしても全体が大きくもなり高価でもあり、操作も面倒になります。また、リクライニング角を増やしていくと、途中からティルト角度も連動して全体として上向いていくリクライニング~ティルト連動型もあり、これは身体状況とのフィッティングが良ければ使い勝手の良いものです。
重度な方ほど介護サービスの利用を ~大き目な車椅子でも屋外に出られるように~
重度な身体障害状態で在宅介護生活を送っていると、ベッドから車椅子への移動(移乗)介助も大変ですし、どうしてもベッド上で臥床したままの時間が長くなりがちです。家庭内でリフト装置によるベッド~車椅子間移乗を日常的に行っているご家庭もありますが、まだまだ少数でもあります。
ですから、重度な障害状態の方ほどディサービスやショートスティサービスを利用し、プロのケアを受ける時間とベッドからの離床時間を確保するべきですし、それがご家族さまの休息時間の確保にもなります。大変なベッドから車椅子への移乗もサービス利用を受け入れてくれた介護事業所のスタッフさんが対応してくれますが、「大き目な車椅子に乗ったままで屋外に出られること」がどうしても必要になります。
廊下~玄関土間、玄関口~道路までの間には、それぞれ段差があることが普通です。ちょっとしたスロープを設置すれば大丈夫ということであれば幸いですが、場合によっては何らかの住宅改修が必要になることもあるでしょう。介護サービスを利用したいけれど大き目な重度者向けの車椅子で屋外に出られないので利用を諦めている、というご家庭も実際にあると思います。
ただしディサービスやショートスティサービスは利用していなくとも、できる限り車椅子で屋外に出る手段/方法は確立しておいた方が良いです。本来あってはならないことですが、例えば火事や洪水といった非常事態に避難できるようにしておくことはとても大切なことですし、実際に残念な事例も起きてしまっています。
車椅子にクッション材が必要になるケースも多い
リクライニング車椅子やティルト車椅子が必要になる方ですでに何らかの身体の変形が起きている場合、車椅子に座っただけでは身体が車椅子にフィットしきれず、車椅子座位姿勢が安定しない方もいらっしゃいます。
リクライニング車椅子ではすべり落ちるようになったりティルト車椅子では安定させるために必要以上に上向かせることになってしまったりします。「起きてしまっている身体の変形」とは、特に下肢の屈曲/伸展拘縮や背中が丸まっている(脊柱後弯拘縮)などですね。これらがあると、車椅子の座面や背もたれと身体の間に大きな隙間ができてしまい、車椅子上で身体が安定しませんし本人さまもリラックスできません。
そのような場合は「ポジショニングクッション」と呼ばれる身体局所を支える専用のクッションがありますから、状態に応じてできてしまっている隙間を埋めて支えてあげることが望ましいです。
車椅子上の姿勢が安定する/本人さまがリラックスできる/身体のできるだけ広い面で支えることで褥瘡予防になる、など、様々な利点があります。ただし車椅子上で変形をきたしている身体に対して適切にクッション材を当て込むにはそれなりの知識や技術も必要で、医療介護従事者や福祉用具取り扱い者であっても誰でも自信をもってできる、というところまで普及していません。せっかく現場で進化してきている福祉用具の活用方法について、今後、少しでも多くの方々が享受できるようになっていくことを願っています。
福祉用具が「より豊かで健康的な暮らしの基盤」となるために
ここまで在宅介護を支える機器・福祉用具として、介護用ベッドと車椅子についてまとめてみました。整理してみて改めて思うことは、現在普通に流通している福祉用具でも十二分に活用されているとは、まだまだ言えない、ということです。まだ少し余裕があるので、ここでその原因について簡単にまとめてみます。
福祉用具が社会の中で活かしきれない理由をソフト面とハード面に分けて整理すると以下のようになります。
ソフト面
*社会全体や関係者の認識知識不足
「福祉用具を活用すればあんなふうに暮らせる」「福祉用具を使いこなすことで障害の重度化予防になり健康維持に寄与する」といった認識や福祉用具に対するイメージが、社会全体としても医療介護の関係者の間でも、まだまだ足りていないように思います。それがそのまま、福祉用具を使うための知識や技術の不足ということにもなっています。
*人を支え環境を整え福祉用具を現場に導入~継続使用しやすい制度は?
介護保険制度のおかげで福祉用具は一気に普及しましたが、まだ不十分な面もあります。例えば今回取り上げた高機能な車椅子が、介護サービス事業所内で十分に活用されているか?といえばそうではありません。在宅療養者さんは介護保険サービスで福祉用具を割合安価にレンタルできますが、介護施設で暮らしている方はレンタルサービスを使えず、基本的には全額自己負担で準備するか施設が持ち出しで準備するしかありません。
また、在宅療養者さんで高機能な車椅子を活用すようとすれば、選択~個々の利用者さんへのフィッティング、それから継続使用していくうえでの細やかなフォローが必要となります。福祉用具提供事業者さんも頑張ってくれていますが、基本的には「月々のレンタル代」のみが収入となるため、細やかなフォローサービスを継続して行っていくのはなかなか大変なのです。
また福祉用具関連だけではなく、ホームヘルプサービスが受けにくくなってきている状況も、在宅生活場面で福祉用や車椅子が活用されにくい原因となっています。
ハード面
*住宅や施設の物理的環境の制限
伝統的に日本の家屋環境は、大き目な高機能な車椅子を使いやすい環境ではありません。介護施設も大規模な特別養護老人ホームならばまだしも、小規模で家庭的な雰囲気~構造となっているグループホームなどでは浴室構造などが大きな車椅子で使いやすい構造にはなっていないことが普通です。
これらの複数の要因は絡み合っており、どれか一つを改善すれば一気に状況が変わるというものではありません。このコラムが最初にあげた項目、「福祉用具に対する認識~イメージ」を変えていっていただくためのささやかな働きかけになれば幸いです。
大渕哲也(理学療法士/介護支援専門員)
1962年新潟県生まれ。
急性期医療機関・慢性期医療機関、特別養護老人ホーム・福祉用具レンタル販売業者等で勤務。
現在は民間介護事業所にて、社内研修・現場アドバイスなどを行なっており、その他民間セミナー業者や各種団体、全国各地の現場からの要請に応じて、研修や現場指導なども行なっている。
Contents
- 第1回 「はじめまして」
- 第2回 「在宅療養介護生活で大切にしたいこと」
- 第3回 「まだ自立レベルでお元気な方」
- 第4回 「歩行に支障が出だしている/認知症初期症状の認められる方」
- 第5回 「歩行に支障が出だしている/認知症初期症状の認められる方 その2」
- 第6回 「実用的には歩けず移動は車椅子だが、自力で立って車椅子へ移る、トイレが自分でできる方」
- 第7回 「介助を受ければ立てる方」
- 第8回 「全介助でも立位は取れない方」
- 第9回 「四肢の変形拘縮があり寝たきりレベルの方」
- 第10回「在宅介護で使う福祉用具① 介護用ベッドその1」
- 第11回「在宅介護で使う福祉用具① 介護用ベッドその2」
- 第12回「在宅介護で使う福祉用具② 車椅子その1」
- 第13回「在宅介護で使う福祉用具② 車椅子その2」



