第12回「在宅介護で使う福祉用具②車椅子その1」
公開日:2025/12/23

車椅子と言えば在宅介護に限らず、医療介護場面で広く使われている福祉用具です。その分、同じ車椅子といっても実に様々なタイプがありますから、特に在宅介護場面を想定した車椅子についての説明をします。
車椅子とは?車椅子の使用目的
皆さんは実際に車椅子に触ったり座ったりしたことはありますか?最近はスーパーマーケットの入口にも「ご自由にお使いください」と置いてあることもあります、街中で見かける機会も増えているので、見たことはあるという方は多いでしょうが、健常な方々にとって実際に座ってみる機会はなかなか無いと思います。「見たことはあるけど実際に使ってみる様子など、具体的なイメージは持てない」くらいが多くの方々にとっての車椅子ではないでしょうか?よく分からないまま生活道具としての車椅子を準備すると、特に在宅場面では思うように使えない、といったことが起こりがちです。ぜひご参考にしてください。
移動目的に使える
そもそも車椅子は何のために使うのでしょう?大まかには簡単なことで「歩けないから、もしくは歩くのが辛いから、移動のために自分の脚で歩く代わりに」ということになります。つまり『移動のために』です。ただし見落としてはいけないのは「歩ける方でも車椅子を使うこともある」ということです。
例えば、ゴルフ場によってはプレイヤーさんが、ホール間の移動の際に(厳密には車椅子ではないですが)電動カートで移動したり、プロ野球でピッチャー交代の際に、ブルペンからマウンドまで同じく電動カートで登場したりしますね。虚弱な高齢者の場合もまったく同じで、全く立てない/歩けない方だけが車椅子を使うわけではなく、例えば家屋内では歩いて過ごしている方でも、屋外に出かける時は車椅子を使う、という方もたくさんいます。(というか、そういう暮らし方が増えてほしいと思います。)
また、車椅子を移動のために使う場合も、自力で車椅子を駆動する場合と、介助者さんが車椅子を押して移動する場合、あるいは屋外の場合には電動で動くものも使われています。さらに家屋内で車椅子を使うことを想定すると、家屋内を自由に動き回れる=小回りが利くかどうか?も大切な点となります。最悪、車椅子がドア入口を通れない、玄関から車椅子が入らない、といったことまで起こり得ます。
家具椅子代わりに使える
次は『家具椅子代わりに使う』という利用の仕方があります。車椅子で移動して、その先で家具椅子に移り座り直す、という使い方もできますが、それはよほど車椅子が合っておらずに車椅子に座っているのが辛い場合には、となります。
現状では家具椅子よりも車椅子の方が利用者さまごとにしっかりと身体に合わせ、安楽に座っていてもらえます。(あくまでも利用者さまごとにきちんと調整して合わせた場合には、ですが)これは、短時間だけ移動のためだけに車椅子を使う場合よりも、より身体機能障害が重度で車椅子を使う時間が長い方~より長く使いたい方にとってはとても大切な車椅子の機能となります。家屋内で車椅子を使う場合には、この車椅子の「家具椅子代わりに使う~車椅子をしっかりと体に合わせる」ということができていないと、結局、ベッドで寝て過ごす時間が長くなってしまいます。
車椅子へ乗り移しやすい
最後にもう一つ、これは「車椅子の利用目的」というよりは「車椅子が果たすべき機能」と言った方が良いのですが、『車椅子からベッドやトイレに乗り移り(移乗)しやすい』ということが挙げられます。どんなに車椅子に安楽に座っていられるとしてもちょっとした車椅子の規格の違いでベッドから車椅子に乗り移りしにくいという状態では、事故の原因にもなりますし、結局車椅子が使われなくなってしまいます。
以上、車椅子を生活道具として準備する場合には「移動目的に使える」「家具椅子代わりに使える」「車椅子へ乗り移しやすい」という3点が、準備確認すべき項目、ということができます。
在宅介護における車椅子の使用場面
以上の車椅子の「利用目的や機能」といったことを踏まえて、在宅介護場面に限定して車椅子のことを考えてみましょう。在宅介護で車椅子が使われる状況を大まかに分けると、以下の3通りになります。
- 出かける時のみ家屋外でのみ車椅子を使う
- 家屋内のみで家屋内移動と家具椅子代わりに使う
- 家屋内でも家屋外でも使う
この3つです。それぞれで結構と車椅子に必要な機能や規格も違ってきますから、順番にまとめていきます。
出かける時のみ家屋外でのみ車椅子を使う
*出かける時/家の外だけで使うという場合は、当然家屋内では歩いて過ごしており、家族さまと一緒に買い物やちょっとした観光に出かける時のみ、車椅子を使う、ということになります。筆者としては、この利用目的の車椅子を『早め早め』に準備していただきたい、と思っています。
家屋内や家の周り程度なら未だ歩けるけど、ちょっと遠方で人ごみの多いところにはちょっと、と感じる高齢者は多いはずです。そういうまだ歩けるは歩けるけどというレベルの方にこそ、『お出かけ用の車椅子』を準備してあげてほしいと思います。
その際には、「家族さまが押して移動する」のですから、タイヤが小さく自力駆動できない「介助型」というタイプで良いでしょう。(タイヤ直径サイズが16インチ40㎝程度のもの、自力駆動用のものは20インチ51cm以上となります)また家族さまと自動車で出かける際には本人さは助手席に座ってもらい車椅子は自動車に積みこむ、という使い方が増えますので、その点でも車椅子のタイヤは小さいタイプがよいでしょう。
また畳んだ車椅子を自動車に積み込みやすいように、背もたれが真ん中の高さで下方に折れる構造のものがよいです。また、家族と一緒にお出かけ用の車椅子としては「座面の高さが低すぎないこと」も大切です。後述するように、家屋内で車椅子を使う場合はむしろ座面を低めにした方が使い勝手が良いのですが、人ごみの中で低床型車椅子(座面高が40cm程度)では、まるで人の壁に囲まれ埋もれるようになってしまいます。座面高は45㎝から50㎝程度を確保した方が良いです。
さらに屋外で車椅子を使用すると、想像以上にガタガタと振動が激しいものです。車椅子本体とは別に、車椅子用座面クッションを準備し敷いた上でフットサポート(足乗せ板)をちょうど良い高さに調整し、膝が突きあがってしまうようなことのないようにしてあげてください。こんな風に、「まだ歩けるうちから車椅子に慣れ親しんでもらう」という生活を送っていれば、将来、家屋内でも車椅子を使いたいとなった時にも滑らかに「車椅子生活」に馴染んでいただける、ということにつながっていくと思います。
家屋内のみで家屋内移動と家具椅子代わりに使う
*家屋内のみで家屋内移動用と家具椅子代わりに使う時には、よほどの豪邸でもない限り、介護施設や病院と同じように車椅子は使えません。
まずは「小回り」できないといけません。自動車への積み込みのためにタイヤは小さく、と上で書きましたが、家屋内で小回りするためにもタイヤは小さな方が良いです。また、屋外を車椅子で移動する際には、足(足部)はどうしても「足置き板」(フットサポート)に乗せておかなければいけませんが、家屋内のみであればフットサポート(フットレッグサポート全体)を取り外してしまった方がずっと小回りもしやすくなりますし、フットサポートのない車椅子に座りながら足が床に届く程度に低床の方が使い勝手が良くなります。
車椅子からベッドやトイレへの乗り移り(移乗)も、最初からフットレッグサポート全体が無い方が、ずっと移乗しやすくなります。タイヤが小さく自力でタイヤ駆動できなくて、どうやって移動するの?と思われるかもしれませんが、床を両足で蹴り漕いだり、車いすに座りながら手すりや壁を手で引きながら移動する、という形で意外と困らないものです。
また、なるべく車椅子を家具椅子代わりに長く使ってもらいたいので、例えば丸まった背中の形に合わせた背張り調整などフィッティングをできるだけしてあげてほしいと思います。長い時間座ることになりますので座面用クッションもぜひ必要ですが、クッションが豪華すぎて厚すぎると足が床に届かなくなったりもしますから、悩ましいところです。
家屋内でも家屋外でも使う
*家屋内でも家屋外でも使う、という状況は、「家屋内を車椅子で過ごしている方が、定期的に車椅子でディサービスに通っている」といったパターンが代表的になります。
ここまでに書いた通り、「屋外で使う車椅子」と「家屋内で使いやすい車椅子」はまったく正反対の規格になりますからこれは難しいお話しになります。理想的には家屋内用の車椅子と外出用の車椅子を準備できれば一番良いのですが、介護保険レンタルサービスで準備できる車椅子は一台だけで、2台準備すると金銭的負担も大きくなってしまいます。
実際には、家屋内で過ごすための車椅子は十分にニーズを満たす車椅子を準備して、ディサービスへの施設備品の車椅子を使わせていただくパターンが多いでしょうか?でも、「ディサービスの施設備品車椅子では座っているのが辛くて仕方ない」といった状況では、ディサービスの利用もままならない状況になってしまいますから、家屋内で使っている車椅子のままでディサービスにも通うことが必要なケースもあります。
そのような状況は、特に身体障害が重度な方で、背もたれが高くて背もたれの角度が調整できる「リクライニング車椅子」や「振り子型車椅子」といったタイプのものを使っている方は、どうしてもそのような状況になります。
この、「重度障害の方が在宅生活で車椅子を使う場合」については、来月、整理したいと思います。
大渕哲也(理学療法士/介護支援専門員)
1962年新潟県生まれ。
急性期医療機関・慢性期医療機関、特別養護老人ホーム・福祉用具レンタル販売業者等で勤務。
現在は民間介護事業所にて、社内研修・現場アドバイスなどを行なっており、その他民間セミナー業者や各種団体、全国各地の現場からの要請に応じて、研修や現場指導なども行なっている。
Contents
- 第1回 「はじめまして」
- 第2回 「在宅療養介護生活で大切にしたいこと」
- 第3回 「まだ自立レベルでお元気な方」
- 第4回 「歩行に支障が出だしている/認知症初期症状の認められる方」
- 第5回 「歩行に支障が出だしている/認知症初期症状の認められる方 その2」
- 第6回 「実用的には歩けず移動は車椅子だが、自力で立って車椅子へ移る、トイレが自分でできる方」
- 第7回 「介助を受ければ立てる方」
- 第8回 「全介助でも立位は取れない方」
- 第9回 「四肢の変形拘縮があり寝たきりレベルの方」
- 第10回「在宅介護で使う福祉用具① 介護用ベッドその1」
- 第11回「在宅介護で使う福祉用具① 介護用ベッドその2」
- 第12回「在宅介護で使う福祉用具②車椅子その1」



