食事介助の手順と注意点とポイントについて

公開日:2023/12/18

食事介助の注意点

食事介助は、在宅介護において重要なサポートの一つです。
要介護者が自力で食事を摂ることが難しい場合、食事介助が必要です。

食事介助の手順や注意点、スムーズに食事介助をするためのポイント、食事介助に役立つ介護用品の選び方についてご紹介します。

食事介助とは

 

食事介助とは、自力で食事を摂ることが難しい要介護者が安全に食事を摂るためのサポートをすることです。

スプーンなどで食べ物を要介護者の口に運び、食べる動作を介助するだけでなく、安全に食事を摂るための環境を整えたり、噛んで飲み込みやすい食事を準備したりすることも含まれます。

高齢になると飲み込みの機能(嚥下機能)が低下するため、食事中にむせやすくなるものです。

食べ物を噛み砕いて飲み込んだ際、気管には、蓋(ふた)がされて食べ物は食道に入りますが、嚥下機能が低下すると気管の蓋が閉まらず、食べ物が気管に入ってしまうことがあります。

これを「誤嚥(ごえん)」と呼びます。

誤嚥すると、誤嚥性肺炎を引き起こす原因になります。

 

食事介助をする目的

 

  • 必要な水分や栄養を摂る
  • 食事を楽しみ、食について満足する
  • 嚥下機能の低下を防ぐ
  • 生活の質を高める

 

自力で食事を摂れない要介護者は、心身の健康を保つために必要な水分や栄養を摂ることができなくなってしまいます。

水分や栄養が不足すると、脱水症状を引き起こしたり、体調を崩しやすくなったりします。

要介護者が健やかに生活していくためには、適切な食事介助を行い、必要な水分や栄養を摂れるようにすることが大切です。

食事量が減ると、栄養が不足するだけでなく、嚥下機能も衰えやすくなってしまい、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まってしまいます。

誤嚥性肺炎を繰り返すと、口から食事を摂るのが難しいと判断され、腹部に小さな穴を開け、直接胃に栄養を注入する「胃ろう」や、鼻から入れた管を通して栄養を補給する「経管栄養」をするよう、医師から提案されるようになります。

口から食事を摂れなくなると、食事を味わう楽しみを失ってしまいます。

嚥下機能を維持できると口から食事を摂ることができるため、食事を味わい楽しむことで要介護者の生活の質を高めることができます。

 

食事介助をする前の準備

 

適切な食事介助をするためには、事前準備が欠かせません。

ここでは、食事介助をする前の準備についてご紹介します。

 

トイレを済ませる

食事介助を行う前に、トイレを済ませてもらいます。

食事介助をしている最中にトイレに行きたくなってしまうと、要介護者が食事に集中できません。

食欲がない要介護者の場合は、食事が中断してしまうと再び食事をしようという意欲を出すのが難しくなってしまう場合もありますので、注意が必要です。

 

 食事の環境を整える

食事介助に必要な環境を整えます。

要介護者が食事に集中できるように、食事と関係のないものはテーブル以外の場所に移動しましょう。

食事に集中できないと食事が進まなかったり、誤嚥しやすくなってしまったりするためです。

以下の必要物品を準備します。

  • 介助用スプーン
  • エプロン
  • 口腔ケア用品
  • ティッシュペーパー
  • ウェットティッシュ

介助用スプーンや口腔ケア用品は要介護者に合ったものを選びましょう。

 

正しい姿勢で座ってもらう

要介護者に正しい姿勢で座ってもらいます。

誤嚥を防ぐためには正しい姿勢を保ち、食事介助を行うことがとても重要です。

 

誤嚥を防ぐためのポイントは以下の通りです。

  • 椅子や車いすなどに座ってもらう
  • 軽く首を前に曲げる姿勢にする
  • 首や体勢が不安定な場合は、枕やクッションなどを使って安定させる
  • 足の裏をしっかり床につけ、膝が90°くらいになるように調整する
  • テーブルの高さは要介護者が軽い前傾姿勢になったときに、肘が90°くらいになるように調整する
  • ベッド上の場合は背上げをする

誤嚥を防ぐためには、首の角度がとても重要です。

首が後ろに反ると、飲み込むときに気管を塞ぐための蓋が開いた状態になってしまい、誤嚥のリスクが高まるためです。

くれぐれも首が後ろに反る姿勢にならないように注意しましょう。

 

足を床につけることで、姿勢が安定しやすくなります。

食事介助を行う場面で、要介護者の身体が安定しないと食事に集中できなくなりますし、首の角度が変わりやすくなり、誤嚥のリスクも高まってしまうため注意が必要です。

 

ベッド上で食事をする場合は、膝の下や身体の側面などに枕を置いて、姿勢を安定させます。

 

口の中を清潔にする

次に、口の中を清潔にします。

口腔ケアは食後に行うものと思われがちですが、実は食前にも行います。

誤嚥性肺炎は、誤嚥をしたらすぐに発症するものではありません。

食前に口腔ケアを行い、口の中の細菌を減らすことが、誤嚥性肺炎の発症リスクを減らすために効果的であるといわれています。

口腔ケアを行うことで唾液が出やすくなり、味を感じやすくなるというメリットもあります。

要介護者が自力で歯みがきやうがいができる場合は、なるべく自力で行ってもらいましょう。

 

誤嚥が心配な要介護者への口腔ケアの方法は、以下の手順に沿って介助者が行います。

  1. 口の中をきれいにするために口の中を拭く旨を要介護者に説明して、口を開けてもらう
  2. 介助者が口腔ケア用の歯みがきティシュ・口腔ケアスポンジブラシ・舌ブラシなどを用いて、頬の内側・唇の内側・歯茎・上顎・舌などをやさしく拭き取る
  3. 拭き終わったらその旨を要介護者に伝え口を閉じてもらう

要介護者の状態に合わせた方法で、口の中を清潔にしましょう。

 

嚥下体操やマッサージを行い唾液を分泌しやすくする

食事前に嚥下体操や唾液腺マッサージを行うと唾液の分泌が促され、食事の味を感じやすくなります。

さらに、噛んだり飲み込んだりするために使われる筋肉が刺激されるため、誤嚥を防ぐ効果も期待できます。

 

嚥下体操の方法

  1. 深呼吸をする(口をすぼめて息を吐き、鼻から吸い込む)
  2. 首の体操(左右振り返り、左右に倒す、左右にまわす)
  3. 肩の体操(上下に動かし、その後肩を中心に腕をまわす)
  4. 両手を頭の上で組み、上半身を左右に倒す
  5. 頬の体操(上半身を真っ直ぐに戻し、頬を膨らませたり、へこませたりする)
  6. 舌の体操(舌を出したり引っ込めたり、左右の口角をなめたりする)
  7. 息を強く吸い込んで「パ」「タ」「カ」と5回ずつ言う
  8. 最後に口をすぼめて深呼吸をする

 

唾液腺マッサージの方法

要介護者の表情や反応をよく観察し、要介護者の不快感や抵抗感が強い場合は無理せずに可能な範囲で行います。

 

手を清潔にする

食事介助を行う場合でも要介護者自身が食事や食器に触れる場面があるため、要介護者の手を清潔にします。

ウェットティッシュなどを使い、要介護者の両手を拭きます。

その際、これから食事をすることを説明するとよいでしょう。

 

食事介助の手順

 

準備ができたら、食事介助を行います。

ここでは、食事介助の手順をご紹介します。

 

エプロンをつける

まずは要介護者にエプロンをつけます。

首周りが苦しくないか、要介護者に声をかけて確認します。

次に、エプロンの裾をテーブルの下に差し込みます。

食事トレイの下に敷く方法もあります。

食事介助の際にこぼれた食事により、要介護者の衣服や寝具を汚さないためです。

 

介助者は要介護者と同じ目線になるように斜め前に座る

介助者は要介護者と同じ目線になるように椅子の高さを調整し、要介護者の斜め前に座ります。

要介護者の利き手側に座るのが一般的ですが、麻痺のある要介護者の場合は、麻痺がないほうに座ります。

 

要介護者から見える位置に食事を用意する

要介護者から見える位置に食事を用意します。

座った姿勢でテーブルが使える場合は、テーブルの上に食事を置きます。

 

献立を伝え、食事内容を理解してもらう

要介護者に献立を伝え、食事内容を理解してもらいましょう。

ただ単に献立を伝えるだけでなく、食事を見せながら献立を伝えることで、要介護者の食欲が増し、食事に注目しやすくなります。

食事に集中できると誤嚥を防ぐこともできますし、食事への満足感も得やすくなります。

 

食事前に一度水分を摂ってもらう

食事前に一度水分を摂ってもらいます。

介助者がお茶や白湯、汁物などを要介護者の口元に運びます。

自力でできる場合は、介助者が手を添える程度にするとよいでしょう。

誤嚥が心配な場合は、とろみ剤を使い水分にとろみをつけてから口元に運ぶと良いでしょう。

 

水分を多く含むものや要介護者が食べたいものからバランスよく食べてもらう

水分を多く含むものや要介護者が食べたいものからバランスよく口元に運び、食べてもらいます。

複数のメニューを食べてもらうと、バランス良く、栄養を摂ることができます。

乾いたものは飲み込みにくく、誤嚥しやすくなるため注意が必要です。

水分を多く含むものをほかのメニューの合間に食べてもらうと、スムーズに飲み込みやすくなります。

 

食べた量を確認し、口腔ケアを行う

食事を終えたら、食べた量を確認し記録しておいても良いでしょう。

健康維持のためにも記録しておき、必要であれば、医師や看護師などに報告をすることで、食事管理がしやすくなります。

口腔ケアを行う際には、口の中をよく観察し、残っている食べ物をすべてきれいに取り除くようにします。

嚥下機能が低下している要介護者の場合、喉のあたりに食べ物が残っていることがあるため、注意が必要です。

 

食事介助の注意点

 

食事介助を行う際の注意点について、ご紹介します。

 

水分が多いものから食べてもらう

食べ始めは、喉の周りの筋肉が動きにくく飲み込みにくさを感じる場合があります。

なるべく水分が多いものから食べてもらうとよいでしょう。

 

湿り気のある食べ物は、飲み込みやすく、喉の粘膜を潤してくれるのです。

最初に水分が多いものを食べてもらうと、口の中や喉の潤いが増し、次の食べ物も飲み込みやすくなります。

 

乾いた食べ物は飲み込みにくく、誤嚥のリスクが高まるため注意が必要です。

誤嚥の心配がある要介護者の場合は、なるべく湿り気のある食べ物を選ぶとよいでしょう。

 

始めのうちは一口を少量にする

最初から一口を多めにして口に運ぶと、噛んで飲み込むのに時間がかかってしまう場合が多いものです。

 

食事の食べ始めは、まだ唾液が十分に分泌されていません。

筋肉もまだ準備運動のような状態であることが多いため、始めのうちは一口を少量にするとスムーズに飲み込みやすくなります。

 

  喉の動きを観察し飲み込めたか確認する

食事介助をする際に、次の一口を入れるタイミングはとても重要です。

まだ食べ物が口の中に残っているのに、次の一口を運ばれてしまうと、要介護者の食欲が失せてしまう場合があります。

 

要介護者の喉の動きを観察して、飲み込んだかどうか確認します。

飲み込むと、喉仏が上下に動きます。

飲み込んだのを確認してから、次の一口を運びます。

 

飲み込んだあとも、噛んでいる動作がある場合には、まだ口の中に食べ物が残っている場合があります。

すべて飲み込めたか要介護者に声をかけて確認してみましょう。

意思疎通が難しい場合は、次の一口を口元に運び、口を開けてもらったタイミングで口の中を観察します。

 

主食、副食、水分をバランスよく食べてもらう

食べてもらう順番は、主食、副食、水分をバランスよく食べてもらうのが理想です。

要介護者の食べたい順番で食べてもらうほうが食が進むのであれば、好きなメニューから食べてもらう方法でもかまいません。

 

数口くらい好きなメニューを食べたら、次の一口は別のメニューや水分を口に運ぶというように、要介護者の希望を尊重しつつも、バランスよく食事を摂れるように調整するとよいでしょう。

 

食べるスピードは要介護者に合わせる

食べるスピードは要介護者に合わせる必要があります。

嚥下機能が低下している場合には、噛んだり飲み込んだりするのに、予想以上に時間がかかるものです。

次から次へと食べ物を口に運ばれると、食べるのを急かされているように感じてしまい、要介護者が食事を楽しめなくなってしまうこともあります。

介助者は要介護者が噛んで味わい、飲み込むのを待つ姿勢が大切です。

 

食事時間は長くても30分くらいまで

食事時間が長すぎてしまうと、要介護者が疲れてしまい誤嚥しやすくなるため、注意が必要です。

食事時間は長くても30分くらいまでにしておきましょう。

食事量が少なくて心配なときは、間食などで回数を増やしたり、栄養補助食品を活用したりするのも一つの方法です。

 

食事介助を行う際に正しい姿勢を保つ方法

 

適切な食事介助を行い誤嚥を防ぐためには、正しい姿勢を保つことがとても重要です。

食事介助を行う際に正しい姿勢を保つ方法をご紹介します。

 

車いすの場合

車いすで食事介助をする場合はフットサポートを上げ、足の裏を床につけて深く腰掛けてもらいます。

足をフットサポートに乗せた状態では、足に力が入りにくく姿勢が不安定になり、食事に集中できなくなるのです。

 

身体を前傾姿勢にして、誤嚥を防ぐために軽く首を前に曲げます。

不安定な場合は、首の後ろや背中などにクッションを入れるとよいでしょう。

 

リクライニング車いすの場合

リクライニング車いすの場合は、リクライニングの角度を45〜80°に保ちます。

チルト機能がある場合は、チルトで角度をつけてからリクライニングで角度をつけます。

 

ベッド上の場合

ベッド上で食事介助をする場合も、リクライニングで45〜80°くらいに身体を起こします。

足側も上げられるようであれば、まず足側を上げてから背中のリクライニングを上げます。

 

 

食事介助を行う際のポイントと介護用品の選び方

 

食事介助を行う際のポイントと食事介助の際に使う介護用品の選び方についてご紹介します。

 

要介護者に合った介護用品を使用する

介助者が食事介助を行う場合には、介助用スプーンを使います。

 

食事介助に適したスプーンは以下のような特徴があります。

  • すくう部分が浅くティースプーンくらいの大きさのもの(2cm×2cmくらい)
  • 柄の部分もまっすぐな形状のフラット型スプーン
  • 口当たりがやわらかいシリコーン製スプーン

スプーンの形状、素材、すくう部分の大きさなどは、要介護者の状態に合わせて選びます。

柄の部分もまっすぐなフラット型のスプーンであれば、スプーンの角度がわかりやすく安全に食事介助をすることができます。

唇や口の中がデリケートな要介護者には、シリコーン製のスプーンが好まれる傾向があります。

スプーン以外にも、エプロンや口腔ケア用品、ストロー付カップなど要介護者の状態に合ったものを選びます。

 

小さいスプーンや浅いスプーンを使用する

食事介助をする際には、なるべく小さいスプーンや浅いスプーンを使用するとスムーズに食が進みます。

一口あたりが多いと、噛んで飲み込むのに時間がかかり、要介護者が疲れてしまうのです。

一口の量はティースプーン1杯分程度が適量です。

深さのあるスプーンは、要介護者が唇や舌の筋肉を使って食事を口の中に入れなければなりません。

浅いスプーンならば、スムーズに食べ物を口の中に入れることができます。

一口を少なめにして飲み込みやすくすることで、誤嚥を防ぐ効果もあります。

 

食べ物を口へ運ぶときの角度に気をつける

食べ物を口に運ぶ際には、スプーンの角度に気をつけます。

要介護者の正面から水平にスプーンを口に入れ、要介護者が口を閉じたら、ゆっくりと水平にスプーンを引き抜きます。

このときに、スプーンを持ち上げるように引き抜くと要介護者の首が上を向くような角度になってしまい、誤嚥のリスクを高めてしまいますので注意が必要です。

 

要介護者が食べやすいように、食事の細かさ・やわらかさを調整する

高齢者の食事は、その細かさ・やわらかさによっていくつかの種類があります。

嚥下機能の低下がある要介護者の場合は、以下の3つのいずれかの食事を選ぶことになります。

 

1. きざみ食

きざみ食とは、食べ物を小さく刻んだ食事です。

噛む力が弱い要介護者や、飲み込む能力は保たれていても口を大きく開けるのが難しい要介護者に適した食事です。

唾液が少ない場合は、食べ物が口の中でまとまりにくい、入れ歯と歯茎の間に食べ物が入りやすい、などのデメリットがあります。

その場合は、とろみ剤を加えてまとまりやすくする必要があります。

 

2. ミキサー食

ミキサー食とは、食べ物をミキサーにかけて液体状にした食事です。

噛む力が低下している要介護者に適しています。

嚥下機能が低下している要介護者の場合は液体状のままでは誤嚥しやすいため、とろみ剤を活用して飲み込みやすくする必要があります。

 

3. 流動食

液体状のおかずやお粥の上澄みである重湯のような食事です。

消化が良く胃腸への負担が少ないため、体調が悪く胃の調子がすぐれないときに適しています。

メニュー自体に栄養が少ないのがデメリットです。

 

要介護者の状態に合った食事を選ぶとよいでしょう。

迷う場合は、医師やケアマネージャー、訪問看護師などの専門家に相談すると安心です。

 

コミュニケーションをとりタイミングを合わせる

食事介助の際に、飲み込みを確認するために喉の動きを観察するのも大切ですが、コミュニケーションがとれる場合は、口の中の食べ物を全部飲み込めたか要介護者に問いかけてみます。

コミュニケーションをとりながら食事介助をすると、タイミングよく食べ物を口に運べるため、要介護者が快適に食事を楽しむことができます。

 

食事介助で口を開けない要介護者に食べてもらうコツ

 

食事介助の際に要介護者が口を開けないのには理由があります。

意思疎通ができる場合には、要介護者に聞いてみるのもよい方法です。

 

食事介助で要介護者が口を開けない場合は、以下のような理由が考えられます。

  • 食欲がない
  • 虫歯や口内炎など口の中に痛みや違和感がある
  • 認知症などにより食事を認識できない
  • 食事を苦痛なものを感じてしまっている

 

理由がよくわからない場合は、いくつかの方法を試してみて効果があるものを続けていくとよいでしょう。

 

要介護者が食べたいものを選ぶ

主に食欲がない場合に適した方法です。

要介護者が好きなものをメニューに選んだり、要介護者に食べたいものを聞いて準備したりすると、食が進みやすくなります。

 

食事の雰囲気を華やかにする

食欲がない場合や食事を苦痛なものと感じている場合に、効果的な方法です。

食事の雰囲気を華やかにすることで、要介護者の気持ちを盛り上げます。

器や盛り付けに工夫をしたり、香りがたつようなメニューを加えたりすると、いつもと違った雰囲気で食が進みやすくなります。

 

口腔内の状態を確認する

虫歯や口内炎など、口の中に痛みや違和感があるのかどうかを確認します。

要介護者とコミュニケーションがとれる場合には、直接的に口の中に痛みがあるか、違和感があるかなどを聞いてみます。

入れ歯が合っていない場合もありますので、要介護者が口を開けないことが続く場合には、一度は歯科医に口の中を調べてもらうほうが安全です。

 

頬や唾液腺の口腔マッサージをする

要介護者が口を開けない場合は、口の中の口腔マッサージを行うのは難しいものです。

ただし、マッサージは頬や唾液腺の部分を皮膚の上から行うこともできます。

口を開けない要介護者には、頬や唾液腺がある耳の下や顎の下の部分を軽くやさしくマッサージしてあげてもよいかもしれません(上記参照)。

唾液の分泌が促されると口の中の状態が改善しやすくなるメリットもあります。

 

温かいものだけでなく冷たいものも選ぶ

日頃から温かいものばかり選んでいる場合には、水分やゼリーなど冷たいものを選ぶと好まれる場合があります。

口を開けない原因がよくわからない場合に試してみるとよい方法です。

 

要介護者と介助者のタイミングがずれないように気をつける

要介護者の口の中にまだ食べ物が残っているのに、次から次へと食べ物を口に入れようとすると、食事を楽しめず、むしろ苦痛な時間となってしまいます。

要介護者の様子をよく観察し、食べ物を飲み込んだあとに次の一口を運ぶようにします。

口を開けない場合、無理やりスプーンを口に押し込んではいけません。

要介護者の下唇にスプーンを軽く触れさせて、口を開けるようやさしく声かけをします。

どうしても口を開けない場合は、無理強いせず、飲み物だけにして機会を改めるほうがよいでしょう。

 

とろみをつける理由と種類

 

食事介助をするときに、とろみをつけることがあります。

とろみをつける理由と、とろみ剤の種類についてご紹介します。

 

とろみをつける理由

嚥下機能が低下している要介護者の誤嚥を防ぎ、飲み込みやすくする目的でとろみをつけます。

さらさらとした液体よりも、とろみがついていたほうが食べ物がゆっくり流れます。

喉に到達するまでに気管の蓋を閉じることができるため、誤嚥を防げるのです。

水分が少ない食べ物もとろみを加えると、まとまりがつき、つるりとした食感になるため、飲み込みやすくなります。

 

しかし、とろみをつけすぎると逆にベタついて飲み込みにくく、喉のあたりに食べ物が残ってしまい、誤嚥の原因となってしまうため注意が必要です。

 

とろみの濃さによる違い

とろみの濃さによってどのような違いがあるのかについて、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類では以下のように定められています。

 

  • 薄いとろみ

薄いとろみは、スプーンですくい傾けるとスッと流れ落ち、フォークの歯の間から素早く流れ落ちます。

薄いとろみは、「飲む」という感覚の濃さで飲み込む際に大きな力を要しません。

ストローで容易に吸うことができるくらいのとろみです。

口に入れると口腔内に広がる液体の種類・味・温度によっては、とろみがついていることがあまり気にならない場合もあります。

 

  • 中間のとろみ

中間のとろみはスプーンを傾けると、とろとろと流れ落ち、フォークの歯の間からゆっくりと流れ落ちます。

飲み込んだとき、明らかにとろみがあることを感じ、「飲む」という表現が適切なとろみの程度です。

ストローで吸うと、抵抗があります。

口の中での動きはゆっくりで、すぐに広がらず、舌の上でまとまりやすいのが特徴です。

 

  • 濃いとろみ

濃いとろみは、スプーンを傾けても形が保たれて流れにくく、フォークの歯の間から流れ落ちません。

口に入れて飲み込むときには、明らかにとろみがついていてまとまりがよく、「飲む」というよりスプーンで「食べる」という感覚になるとろみの濃さです。

 

・引用:栢下  淳,藤島 一郎ら(2021). 日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021. 日摂食嚥下リハ会誌 25(2):135–149.

 

特徴を理解しておけば、要介護者に合ったとろみの濃さになっているか、見分けやすくなります。

 

とろみ剤の種類

食べ物にとろみをつけるときには「とろみ剤」を活用すると便利です。

とろみ剤は粉末タイプが主流です。

成分は、デンプン系、グアガム系、キサンタンガム系などがあります。

 

それぞれの特長は以下の通りです。

1. デンプン系

デンプン系は、とろみがつきはじめるのが早いのが特徴です。

唾液や味噌に含まれる酵素の影響を受けやすく、安定性に劣ります。

においが変わりやすく、使用量が多くなりやすい点がデメリットとなります。

 

2. グアガム系

少ない量でとろみをつけられるため経済的なとろみ剤です。

食べ物の温度や時間経過によって、とろみのつき方が異なります。

使う量が多くなるとベタベタしてくっつきやすくなる点がデメリットです。

 

3. キサンタンガム系

べタベタせず凝集性があるため口の中でベタつかず、まとまりよく飲み込みやすいのが特徴です。

味やにおいが少ないため、本来の食事の味を楽しめます。

時間経過に伴うとろみの変化が少なく、とろみの濃さを調整しやすい点がメリットです。

食べ物の温度によって、とろみのつき方が異なる点がデメリットです。

 

とろみ剤は粉末タイプが主流ですが、液体タイプもあります。

粉末は溶けにくくダマになりやすいのが特徴です。

水分や汁物、牛乳などは、ダマにならない液体タイプのとろみ剤が使いやすいでしょう。

とろみ剤を使用する際の注意点

とろみ剤を使用する際には、以下の点に注意します。

  • とろみの濃さを要介護者に合わせる
  • 適度なとろみの濃さがわからないときは医師やケアマネージャー、訪問看護師などの専門家に相談する
  • とろみは濃すぎても誤嚥しやすくなる
  • とろみ剤を入れたらすぐにかき混ぜ2〜3分放置して、とろみの濃さを確認する。混ぜながらとろみの濃さを確認しない。
  • 牛乳や流動食、味噌汁、スープはとろみがつきにくいため、液体タイプのとろみ剤を使うとよい

誤嚥を防ぐためには、要介護者の嚥下機能に合わせたとろみの濃さで食事介助を行うのがポイントです。

 

適切に食事介助を行い楽しい食事を

 

適切に食事介助を行うことができると、嚥下機能の衰えを防ぎ、誤嚥性肺炎の予防につながります。

食事介助により、要介護者が食事を楽しむことができ、生活の質が高まります。

適切な食事介助を行い安全を守りながら、要介護者と一緒に食事を楽しみましょう。